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済生春秋

第57回 古人の言葉

 「人間万事塞翁が馬」
 かなり以前に東京新聞から座右の銘について小文の依頼を受けたとき、私が選んだ言葉だ。
 中国の古典から生まれた言葉だが、ずいぶん励まされた。正鵠(せいこく)を得ている。手痛い失敗をしても、これがプラスになることをたびたび経験した。楽に成果を得られた仕事の経験は、後日、役に立たない。むしろ人生を甘く見たり、高慢になったりして失敗する原因になった。
 記事が掲載された時、日本テレビのNEWS ZEROのキャスターとして活躍する村尾信尚さんは、「自分もこの言葉が好きだ」と葉書をくれた。彼の人生の歩みに照らした実感なのだろう。

 このほか好きな言葉には、「人生いたるところに青山あり」「終わり良ければすべて良し」「一病息災」などたくさんある。
 古くから言われてきた諺(ことわざ)などには、悠久の真理が込められて味がある。どれも単純な言葉だが、日常の生活に役立っている。
 「人の口に戸は立てられぬ」は、そのとおり。しかし「人の噂(うわさ)も七十五日」だから気にしなくても......。
 「善は急げ」と「急がば回れ」は矛盾すると、固いことを言うのはよそう。シチュエーションによって使い分ければよいだけだ。

 今は人類が初めて経験する超高齢社会になった。超高齢社会ではたくさん問題が生じる。この状況にあった古人の戒めの言葉は、多くはない。
 存続の危機に瀕している東芝の不祥事は、現役を引退した相談役や顧問が経営や人事に介入したことが、原因の一つである。高齢者特有の行動で、どこの社会にもみられる現象だ。
 高齢者の会話は、現役時代の自慢話、孫自慢、そして何よりも病気の話に終始する。同じ話が繰り返されるのはご愛敬だが、将来に向けた発展的な内容ではない。若い人にとって退屈でしかない。

 これに対する処方として、江戸の儒学者・佐藤一斎の「老にして学べば、即(すなわ)ち死して朽ちず」という言葉を思い浮かべる。
 87歳まで生き、晩年まで活躍した一斎でなければ、言えなかった言葉だろう。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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