ホーム > 済生春秋 >  第60回 やせ我慢

済生春秋

第60回 やせ我慢

 寒さには強い方だ。
 北陸の生まれだから、「冬は、寒いに決まっている」と思ってきた。60年以上前の冬は、今よりずっと寒かった。
 昔の家は、断熱性がなかった。私の家は、隙(すき)間風が遠慮なく通り抜けるだけでなく、雪まで吹き込んできた。当時の暖房具は、火鉢程度だったから、我慢するしかなかった。これで鍛えられた。
 40年以上こたつやストーブなどの暖房具を所有しない生活をしてきた。これまで住んできた共同住宅は、南側に面しているうえ、上下の階から温められる好条件が幸いした。
 厚手のコートも長い間、持たないまま冬を過ごしてきた。厚いコートは、貧弱な体にはずしりと重い。

 この厳寒の東京でもTシャツ姿で歩く外国人を見かける。がっちりした肉体が、日本の寒さを物ともしない。
 現在の私の体脂肪率は、8%程度。内臓脂肪を落とすため食事と運動面で努力した成果だが、皮下脂肪まで薄くなった。耐寒力では不利である。
 今年の冬は、異常に寒い。いくら寒さに強いといってもやはりこたえる。もはや、やせ我慢の心境に入った。

 我慢力は、成長とともに身についた性格だ。
 遠足や運動会で裕福な家庭の子どもが、当時高価だったチョコレートやバナナを持っていても、「そんな物は食べたくない」と無視をした。これは私だけでなく、当時のほとんどの子どもは、同様な態度だった。
 我慢することは、日本人の美徳と言われてきた。ラフカディオ・ハーンが『日本の面影』で夫の遺骨を抱き、微(ほほ)笑む日本女性の不思議さを描いている有名な文がある。悲しみをじっと我慢する。日本人にはよく理解できる。

 最近日本では、我慢する心が薄れていないだろうか。
 欲求が満たされないことへの不平不満や他人への妬(ねた)みなどから切れてしまう人が、増えたと感じるのは私だけだろうか。年少者だけでなく高齢者にも見受けられる。成熟していない大人たちである。
 山本五十六が言った「苦しいこともあるだろう。(中略)じっとこらえてゆくのが男の修行」は、現代の日本人にも必要だと痛感する。
炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

▲ページトップへ