社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2016.01.26

大動脈解離

Aortic Dissection

解説:森重 徳継 (福岡総合病院 心臓血管大動脈センター長・心臓血管外科主任部長)

大動脈解離はこんな病気

大動脈は心臓から全身へ血液を流す管(動脈)の本管です。胸部から腹部にかけて位置しており、直径は胸部で2~3cm、腹部で1.5~2cmあります。大動脈の壁は、その内側から内膜、中膜、外膜の三層で構成されています。大動脈解離は中膜に亀裂が入り裂ける病気で、多くは内膜に入口となる亀裂があります。

大動脈の構造と大動脈解離
大動脈の構造と大動脈解離

大動脈解離は、予兆なく突然の激痛で発症します。痛みの場所は裂ける場所で異なりますが、胸部や背中に感じることが多く、場所が移動することもあります。
解離する大動脈の部位によりスタンフォードA型とB型に分類されます。

スタンフォードA型とB型の違い
スタンフォードA型とB型の違い

大動脈解離の治療法

心臓に近い上行大動脈が解離した場合(スタンフォードA型)は、急死する危険性の高い合併症を伴うことが多いため、診断されれば専門医療機関での緊急手術が必要となります。危険な合併症の例としては、心臓まわりの隙間(心のう腔)に出血し心臓を圧迫する(心タンポナーデ)、心臓の出口にある大動脈弁が壊れることによる血液の逆流、心臓へ血液を供給する冠状動脈の詰まり、脳血管の閉塞(急性心筋梗塞、脳梗塞、大動脈弁閉鎖不全)などが挙げられます。

スタンフォードA型解離に伴う危険な合併症
スタンフォードA型解離に伴う危険な合併症

スタンフォードA型では、手術を行なわなかった場合の発症後2週間以内の死亡率は5割に達します。手術は全身麻酔下の開胸手術により、解離した大動脈を人工血管で取り換える(置換)手術になります。取り換える範囲は、通常は上行大動脈(上行大動脈人工血管置換)あるいは上行大動脈から弓部大動脈(上行弓部置換)です。

スタンフォードA型解離の手術治療(1)
スタンフォードA型解離の手術治療(1)

上行弓部置換を必要とする場合、取りかえる範囲が広くなるため手術時間が長くなりますが、最近は人工血管にバネが付いたステントグラフトを使用することで末梢側吻合が簡略化され、手術時間が短くなり身体への負担は軽減されました(オープンステント法)。以前は手術を行なっても20%前後は救命できませんでしたが、近年は手術成績が向上して10%以下になっています。

スタンフォードA型解離の手術治療(2)
スタンフォードA型解離の手術治療(2)

上行大動脈に解離のない場合(スタンフォードB型)は、入院のうえ安静にして血圧を下げる内科的な治療で様子をみます。一部の人は大動脈径の拡大や破裂、腹部内臓の血行障害の出現により早い時期に外科治療を必要とすることもあります。
急性期治療が終わった後は、スタンフォードA型・B型の区別に限らず、血圧の治療を継続しながら、定期的に大動脈が拡張しないかCT検査で診ていく必要があります。解離した大動脈の拡張が進んだ場合(一般的には5~6cm以上)は、手術治療を行なうこともあります。海外では、発症後早い時期(半年以内)に解離の原因となった内膜亀裂部をステントグラフトの内挿により塞ぐ血管内治療が大動脈解離発症後の拡張進行を抑えると報告され、注目されています。このスタンフォードB型大動脈解離のステントグラフト内挿術は、日本で開発された治療方法で、今後広く普及していくと思われます。

早期発見のポイント

胸部や背中にこれまでに経験したことのないような激痛を感じた場合、速やかに医療機関を受診することが肝要です。診断にはCT検査が必須です。意識障害や手足の麻痺で来院する人も、大動脈解離の可能性を念頭に置いて、頭部の検査の外に、頸動脈の超音波画像検査や体のCTを行なうことで大動脈解離と判明することがあります。胸部や背中の痛みの原因となる病気には大動脈解離のほかにも、急性心筋梗塞、胸部大動脈瘤破裂、肺塞栓症など重篤で治療を急ぐものが多いです。

予防の基礎知識

大動脈解離の原因は動脈硬化に伴う場合とそうでないものがあります。また、体質的に大動脈壁が弱いことが原因で発症する人もいます。
動脈硬化に伴うタイプの場合は、禁煙や生活習慣病(高血圧脂質異常症糖尿病)の早期発見と治療が有効です。動脈硬化を伴わないタイプの場合も高血圧が誘因となりますので、検診で血圧が高いと診断された際は、きちんと医療機関を受診して治療を受けることが大事です。体質的に大動脈壁が弱い場合は、大動脈解離を発症する前に、弁膜症の発症や、親兄弟の大動脈解離・大動脈瘤の診断を契機に検査を受けて大動脈の拡張が見つかったりすることがあります。その場合は、飲み薬(ベータ遮断薬やロサルタンなど)で解離発症を予防する効果が期待できます。また、解離を発症する前に大動脈瘤を手術で治すことで、大動脈解離を未然に防ぐことができます。

森重 徳継

解説:森重 徳継
福岡総合病院
心臓血管大動脈センター長・心臓血管外科主任部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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