社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2015.07.07

子どもの不整脈

child arrhythmia

解説:長嶋 正實 (愛知県済生会リハビリテーション病院 院長)

子どもの不整脈はこんな病気

一般的には、心臓の動き(脈)が不規則な状態を不整脈と考えがちですが、医学的には、心臓の動きが異常に速すぎたり(頻脈性不整脈:ひんみゃくせいふせいみゃく)、遅すぎたりするもの(徐脈性不整脈:じょみゃくせいふせいみゃく)、あるいは異常な動きをする可能性のあるものも不整脈に含まれます。そして、子どもの不整脈は成人と異なる特徴があります。

(1)子どもの年齢別にみる不整脈
成人と同じように、子どもにもさまざまな不整脈が見られますが、その成長時期によって特徴があります。

胎児期
胎児でも各種の不整脈が認められ、重症な不整脈では胎児死亡の原因になったり、胎児治療が必要になったりすることもあります。

新生児期、乳児期
生後間もない新生児にも上室期外収縮などの不整脈がしばしば見られますが、多くの場合、数日以内に自然消失します。しかし、新生児期や乳児期の上室頻拍、心房粗動(小児では心房細動は術後症例以外にはまれです)などの頻脈性不整脈は成人より短時間で心不全になるので早期に積極的な治療が必要です。

幼児期以降
幼児期では不整脈の頻度は減少しますが、その後、年齢とともに不整脈の頻度は徐々に増加します。上室期外収縮、心室期外収縮、1度~2度房室ブロック、完全右脚ブロック、WPW症候群などの不整脈が増加しますが、症状が出ることはまれです。
学校心臓検診では、健康と思われる児童生徒のなかにこのような無症状の不整脈が多く発見されます。小学生は1%前後、中学生は1.5%前後、高校生は2%前後に何らかの不整脈が見られます。ただ、学校心臓健診などで発見される多くの子どもの不整脈は、明らかな基礎心疾患を認めず、運動制限が必要な症例は多くありません。また、特に医師の定期健診を受ける必要のないものもあります。しかし、まれに心室頻拍や上室頻拍なども見られますが、心拍数が非常に多いと動悸めまい、まれに失神や突然死などが見られることがあります。こうした症状がある場合や、運動によって誘発される不整脈は専門医と相談してください。

(2)先天性心疾患に関連する不整脈
先天性心疾患にはそれぞれの疾患で特有な不整脈を認めることがありますが、不整脈によっては状態が悪化する場合もあります。先天性心疾患の術後には完全右脚ブロック、上室期外収縮、心室期外収縮、房室ブロックなどの不整脈が認められることがあります。多くの症例では経過観察だけでよいと思われますが、まれに心室頻拍、上室頻拍、心房粗動、心房細動、洞不全症候群(どうふぜんしょうこうぐん)など重篤な不整脈を合併することもあります。その場合には治療が必要となることが多いので、主治医や専門医と相談してください。術後、数年経っても不整脈が新しく出現することもありますので術後も長期間の経過観察が必要です。

(3)遺伝子異常に基づく不整脈
先天性QT延長症候群、カテコラミン感受性多形性心室頻拍、催不整脈右室心筋症、ブルガダ症候群などと呼ばれる注意が必要な不整脈があります。幸いにして頻度の低い不整脈ですが、原因となる遺伝子異常が発見されています。このような不整脈は、運動中や睡眠中に突然、心室頻拍や心室細動が出現し、失神や突然死することがあります。家族性に出現することもありますので、家族や家系の病歴にも注意しましょう。
先天性QT延長症候群などでは、遺伝子異常の種類に合わせた治療も行なわれています。今後も遺伝性不整脈では責任遺伝子がさらに新しく発見されることが考えられます。

早期発見のポイント

子どもの場合、成人と比較して不整脈に起因する症状は軽く、無症状のことも少なくありません。しばしば、健診で初めて不整脈を指摘されることがあります。また、「心臓がドキドキする」「息苦しい」「胸が痛い」などの症状を訴えることもあります。不整脈は心電図で診断されます。心配のないことが多いのですが、まれに、不整脈によっては失神発作、痙攣、心不全、突然死などの重篤な症状を認めることもあります。無症状でもまず医師と相談しましょう。

予防の基礎知識

子どもの不整脈の症状は軽いことが多いのですが、失神や突然死のリスクのある不整脈では慎重な管理が必要です。特に、運動中または運動直後に症状がある場合には注意が必要で、不整脈に起因するものでないかどうか検討しなければなりません。
失神や突然死などの予防のためにも、以下のような検査や治療法があります。

(1)運動負荷試験
運動によって誘発される不整脈は何らかの運動制限が必要な場合があります。そこで、作為的に運動負荷をかけることで、注意すべき不整脈かどうかを確認します。
運動負荷試験にはトレッドミル負荷試験やエルゴメータ負荷試験などがあります。中学生以上ではマスター2階段試験では十分な負荷がかからないことが多く、また負荷中の心電図が観察できませんので上記の負荷試験が望ましいと思います。

(2)薬物治療
さまざまな抗不整脈薬が治療に使用されています。抗不整脈薬治療は専門医と相談して、適切な管理を受けてください。

(3)アブレーション治療
カテーテルを使用して不整脈の原因となる部位を焼いて、不整脈を治療する方法です。上室頻拍や心室頻拍などの治療に行なうこともあります。

(4)ペースメーカ治療
完全房室ブロックや洞不全症候群のように脈が遅すぎる場合には心拍数を正常にするペースメーカを、また心室頻拍や心室細動のように生命に関わるような不整脈には植え込み型徐細動器(ICD)を体内に植え込むこともあります。


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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