社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2018.04.11

慢性腎不全

chronic renal failure

解説:岡本 昌典 (済生会和歌山病院 腎センター部長)

慢性腎不全はこんな病気

腎不全は腎臓の機能が低下して、正常にはたらかなくなる病気です。慢性腎不全は数カ月から数十年かけて腎機能が徐々に低下し、腎臓のろ過能力が正常時の30%以下となって、体内の正常な環境を維持できない状態のことをいいます。慢性腎臓病(CKD)が進行することで発症し、腎機能の回復は見込めず、高度な腎機能低下の場合、多くは末期腎不全(腎臓のろ過能力が15%未満)へと進行し、生命に危険をきたします。そして最終的には、透析や腎移植をする必要が出てきます。

腎機能の低下に伴って、現れる症状は下記のとおりです。

※アシドーシス:慢性腎不全の場合、腎機能が低下すると尿中に水素イオンが排泄できなくなり、この蓄積によって血液の酸性が強くなっている状態のこと。

また、2つある腎臓の両方を同時に障害する病気は、すべて慢性腎不全の原因となります。透析治療が必要になった患者さんの主要疾患は、2016年で多い順に、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、多発性のう胞腎などです。とりわけ、近年は社会の高齢化によって糖尿病性腎症と高血圧に起因する腎硬化症が増えています。

慢性腎不全の治療法

まず、慢性腎臓病の原因になっている疾患(糖尿病や高血圧など)に対して、治療を行なうことが一番大切です。腎機能が一時的に上向くことはありますが、基本的にはある一定のレベルまで悪化してしまうと、失われた腎臓の機能が回復する見込みはほとんどないと考えた方がいいと思います。そのため、できる限り腎不全の進行のスピードを抑え、少しでも透析療法への移行を遅らせることが治療の目的になります。

具体的には、(1)肥満気味であれば減量、喫煙者であれば禁煙など生活習慣の改善 (2)減塩(6g/日未満)・タンパク制限などの食事療法 (3)厳格な血圧コントロール(130/80mmHg以下)が挙げられます。
生活習慣の改善に努めたとしても、十分な成果が得られない場合は、薬による血圧、血糖、血中脂質のコントロールが必要です。進行や症状を抑制するためには、薬物療法による貧血の是正、アシドーシスの対策、電解質管理、経口吸着剤による尿毒素対策なども効果的です。しかし、これらの治療にもかかわらず、腎機能の低下がさらに進んでしまうと、透析療法か腎移植が必要になります。

血液透析

血液透析は、まず動脈と静脈を手術でつなげるシャント手術を腕に行ないます。そして、手術によって太くなった静脈に針を刺して、1分間に200cc程度の血液を抜き、その血液をダイアライザーという機械を用いて老廃物を取り除いてきれいにし、再び身体の中に戻すという治療法です。多くは週に3回、1回4~5時間行なうことによって、血液中の老廃物を除去します。

血液透析
血液透析

腹膜透析

お腹の中には臓器を覆っている腹膜という袋のようなものがあり、その袋の中にカテーテルという管を入れて、透析液を出し入れすることができるようにする治療法です。腹膜に透析液を入れてしばらくすると、透析液の中に血液中の老廃物が出てきます。その老廃物がたまった透析液を身体の中からカテーテル経由で外に出し、新たな透析液をまた身体の中に入れるということを1日4回くらい繰り返すことによって、血液中の老廃物を除去することができます。

腎移植

基本的には腎不全患者さんの機能が悪化した腎臓は取り出さないまま、亡くなった方、あるいは血縁者などのドナーから腎臓を1つ提供してもらい、移植するという治療法です。移植後は、健常な方にほぼ近い生活を送ることができますが、移植腎が機能している限り、拒絶反応を抑えるため、免疫抑制剤という薬を飲み続ける必要があります。最近は医療技術の進歩によって、移植を受ける側と腎臓を提供する側の血液型が異なっていても移植ができるようになり、血液型が同じ場合の腎移植と遜色ない成績になっています。

早期発見のポイント

まず、腎不全の予備軍である慢性腎臓病の早期発見が重要です。しかし、腎臓は我慢強い臓器なので、多少悪くなっていても自覚症状が出ません。異変を発見するには、定期的な健診が必須です。慢性腎臓病の多くは、「尿検査」や「血液検査」で早期発見できます。

タンパク尿と血清クレアチニン値はどちらか1つが異常でも慢性腎臓病と診断されます。病気を見逃さないためには、両方の検査を受けることをお勧めします。

慢性腎臓病は、血液をろ過する糸球体が壊れ、尿に漏れないはずのタンパクが検出されることがよくあるため、尿検査では「タンパク尿」を調べます。タンパク尿が「1+」以上だと慢性腎臓病が疑われます。「-」は正常です。その間の「±」は、ほぼ正常ですが、経過観察が勧められます。

血液検査では、「血清クレアチニン値」を調べます。クレアチニンは老廃物を代表する物質で、腎臓の機能が正常なら尿に出ますが、腎臓のはたらきが低下すると血液に留まる量が増える物質です。クレアチニンの値からeGFR(推定糸球体ろ過量)という値を計算し、腎臓が老廃物を尿へ排泄する能力がどのくらいあるか、腎臓のはたらきが正常な場合の何パーセント程度かを示し、数値が低いほど腎臓のはたらきが悪いということになります。eGFRが60未満だと慢性腎臓病が疑われます。

糖尿病が原因の慢性腎臓病(糖尿病性腎症)に限っては、タンパク尿やクレアチニンの検査だけでは早期発見ができないため、「尿中微量アルブミン」を測定する必要があります。糖尿病性腎症の初期には、タンパクの1つであるアルブミンがごく微量、尿に漏れることがあるためです。一般の健診では測定されないため、糖尿病の人は、医療機関で年1回は「尿中微量アルブミン」検査を受けましょう。

糸球体(腎臓の中で老廃物のろ過を行っている部分)に炎症が起こる糸球体腎炎では、赤血球が尿に混じって排出され、尿潜血を認めることがあります。尿潜血は、-~±までは正常ですが、+が続くようならば異常が考えられます。

尿検査で尿潜血が陽性になっても、この検査だけでは腎臓から出血しているのか、尿路の異常で出血しているのか特定できません。そのため、どの部分から血液が出ているかを調べる必要があります。超音波、レントゲン、CTなどの画像検査や腎生検(腎臓を細い針で刺して、一部組織を取ってくる検査)を行なうことで、血尿の原因や病状を把握することができます。

予防の基礎知識

肥満、運動不足、過度の飲酒、喫煙、ストレスなどの生活習慣は、慢性腎臓病の発症に大きく関与しているといわれています。また、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病がある人は動脈硬化を認め、腎臓病が進行しやすい傾向があります。現代社会において、日本人の6人に1人が糖尿病、5人に1人が高血圧である可能性が示唆され、これらの生活習慣病を改善することが、腎臓病の予防や透析を免れる大きなポイントになってきます。特に高血圧になると、血管の負担が増大して動脈硬化が進行し、さらに腎臓の機能が悪くなってタンパク尿が増えてしまいます。血圧を良好に保ち、腎機能に影響を与えないようにすることが大切です。また、消炎鎮痛薬は腎臓の血流量を減少させ、腎障害を悪化させる恐れがあるため、必要性が低い場合はできるだけ控えましょう。

近年、わずかな腎機能の低下が、心筋梗塞脳卒中などの心血管系疾患の大きな危険因子となることが明らかになってきました。タンパク尿自体が腎不全へと進行させ、さらに心筋梗塞などの心血管系疾患を起こす重大な危険因子でもあるため、心臓病や高血圧、糖尿病の患者さんは、定期的に尿検査を受ける必要があります。

塩分制限とタンパク制限で腎臓への負担を軽減し、高血圧治療薬(レニン-アンギオテンシン系)を使ってタンパク尿を減らすことは、腎臓病の進展を抑制するだけでなく、心血管系の疾患リスクを低下させることにもつながります。

岡本 昌典

解説:岡本 昌典
済生会和歌山病院
腎センター部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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