社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2014.07.03

デング熱

dengue fever

解説:前原 潤一 (済生会熊本病院 救急総合診療センター救急科)

デング熱はこんな病気

デング熱は、デングウイルスを持っている蚊に刺されると感染する病気です。南米、東南アジア、アフリカなどの熱帯・亜熱帯地域で流行しており、国内では、流行地域から帰国した人のうち、年間約200人がこの病気だと診断されています。
蚊に刺されて感染すると、3日~1週間後に頭痛や目の痛み、筋肉痛や吐き気などを伴う発熱が起こります。その数日後、発疹が腹部や背中に広がることが特徴です。治療薬はありませんが、たいていの場合は10日以内に自然に治ります。

ただし、まれに重症化し、”デング出血熱”と呼ばれる出血やショック状態を起こす場合があります。デング出血熱を生じると、緊急入院が必要となり、数%の人が亡くなると言われています。
この症状は、デング熱による熱が下がり始めたころに突然起こることが多いです。全身で出血しやすくなる傾向が生じ、血液中の液体成分が他の臓器ににじみ出るようになります。それにより、鼻血や消化管出血が起きたり、胸部や腹部に水がたまったり、肝臓が腫れたりします。症状が悪化すると、血管内を循環する血液の量が不足し、ショック状態を起こすのです。
特に、過去にデング熱にかかった経験がある人は、再感染するとデング出血熱になる確率が高いです。デングウイルスには4つの型があり、一度デングウイルスに感染すると、その型のウイルスには一生免疫ができます。しかし、それ以外の3つの型に対する免疫は、数カ月で消えてしまい、再度感染すると、より”デング出血熱”を起こしやすくなるのです。

早期発見のポイント

流行地域への渡航後2週間以内に、発熱を伴う頭痛や目の痛み、筋肉痛吐き気などの症状がみられる場合は、デング熱の可能性が高いです。しかし、この症状はインフルエンザなどにも似ているため、症状だけからデング熱と特定することは難しいと言えます。
病院で血液検査をすれば、デングウイルスに感染しているかどうかを調べることができますので、デング熱の疑いがある場合は病院を受診し、医師に「先週、東南アジアに行きました」などと、海外渡航歴があることを忘れずに伝えましょう。
通常、デング熱は、点滴や鎮痛解熱剤を投与しながら安静に過ごすことが治療法です。ただし、「サルチル酸系」の鎮痛解熱剤はデング熱を重症化させる可能性があるため、「アセトアミノフェン」という鎮痛解熱剤を使うことが望ましいとされています。自己判断で市販の鎮痛解熱剤を使用せず、必ず医師の判断を仰ぐようにしましょう。

また、鼻血や黒い便が出たり、皮膚に赤色の発疹が出現する「点状出血」などが見られたりした場合は、速やかに病院へ行きましょう。これらの症状は身体が出血しやすくなっていることを示しており、デング出血熱である可能性があります。

予防の基礎知識

デング熱の流行地域(南米、東南アジア、アフリカ)へ旅行する際は、長袖など肌を露出しない服装を心がけることが重要です。また、市販の虫よけスプレーを使用することも有効です。予防ワクチンはないので、できるだけ蚊に刺されないように注意しましょう。
蚊に刺されてから発症まで3日~1週間の潜伏期間があるため、帰国後もしばらくは体調の変化に気を配りましょう。
日本国内では現在デング熱は流行しておらず、国内で発症した患者さんはすべて、海外で感染して帰国したと考えられています。そのため、流行地域へ渡航しなければ、デング熱を心配する必要はほとんどありません。
ただし、過去に国内でデング熱が流行したこともあり、日本に生息しているヒトスジシマカはデングウイルスを患者さんから他の人へと媒介する可能性があります。今後、国内で流行する可能性はゼロではないことを覚えておきましょう。

前原 潤一

解説:前原 潤一
済生会熊本病院
救急総合診療センター救急科


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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