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2014.09.17

B型肝炎

Hepatitis B

解説:柳田 公彦 (唐津病院 内科部長)

B型肝炎はこんな病気

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染で起こる肝臓の病気です。HBVは、血液または体液を介して感染し、肝細胞に入り込みます。そして、肝細胞が有するタンパク合成能力の一部を借りて自己を複製し、他の肝細胞に感染を広げていきます。HBVの排除は、免疫を担当するリンパ球が感染肝細胞を破壊すること(=肝炎)で行なわれます。感染の時期が新生児~乳児期か成人期かで、病気の経過は大きく異なります。

1. 新生児~乳児期に感染した時の経過(B型慢性肝炎)

免疫機構ができあがる前の新生児~乳児期に感染すると、最初は肝障害がなく経過します。10~30歳代頃に肝炎が起こり始めますが、早い時期に肝炎が起こるほど症状が軽く、短期間で治まることが多いようです。その後、8~9割は肝炎の程度が軽い「HBe抗体陽性キャリア」の状態になりますが、残りの1~2割は肝硬変に進展します。経過中の肝臓がんの発症率は、HBe抗体陽性キャリアの状態で0.1~0.4%/年、慢性肝炎の状態で0.5~0.8%/年、肝硬変の状態で1.2~8.1%/年程度と報告されています。治癒することはないので、治療の目標は、
(1)ウイルスの増殖を抑え、肝硬変への進展や肝がん発症を予防する
(2)肝がんを早期に発見して治療する
となります。

2. 成人期に感染した時の経過(B型急性肝炎)

1の場合にたどる数十年の経過が、数カ月間に短縮されたような状態と考えると理解しやすいかもしれません。感染後1~6カ月で肝炎が発症しますが、多くの場合数カ月で沈静化し、血液中のHBVは検出されなくなります。血液検査で肝機能異常があっても、70~80%は自覚症状がないまま経過します。残りの20~30%には吐き気、嘔吐倦怠感、黄疸などの症状が見られます。ごく一部が、劇症肝炎と呼ばれる肝不全の状態となり、肝移植が必要となることがあります。慢性化率は、日本で昔から発症が見られた「ジェノタイプB」と「ジェノタイプC」ではほぼゼロ、欧米から入ってきた「ジェノタイプA(最近の急性肝炎の約半数を占める)」で8%程度です。慢性化した場合には、薬でウイルスの増殖を抑える抗ウイルス療法が必要となります。

3. HBV再活性化

B型慢性肝炎沈静後やB型急性肝炎治癒後でも、肝細胞内にHBVが残り、免疫力が低下したときに再び肝炎の状態になることがあります。特に、白血病悪性リンパ腫のような血液疾患の治療、悪性腫瘍に対する抗がん剤治療、膠原病に対する免疫調整薬剤での治療、移植治療などの場合で起こりえます。定期的な検査で、HBV-DNAが陽性になった場合にウイルスの増殖を抑える薬剤を服用することで、肝炎再燃の多くを予防することができます。

4. HIVとの重複感染

成人期のB型肝炎感染の多くは性行為で感染します。HBV以外にも性行為で感染する病気があり、その中でも特にHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の重複感染が問題となります。免疫力が低下するためにB型肝炎が慢性化しやすく、B型慢性肝炎の治療で使用する一部の薬剤がHIVの薬剤耐性を引き起こす可能性があるためです。HIVとHBVの両方の状態を考慮して、適切な治療を行なう必要があります。

早期発見のポイント

B型肝炎の検査として測定されるのは、通常は「HBs抗原」です。これは、採血を行なう際にB型肝炎ウイルスがいるかどうかの検査です。B型慢性肝炎の方とB型急性肝炎発症中の方が陽性となります。自覚症状の有無にかかわらず、血液検査を受けることが大切です。特に、以下に該当する方は、一度検査を受けた方がよいでしょう。

・血縁者または配偶者に肝疾患、特にB型肝炎患者がいる
・健康診断などで肝機能異常を指摘されたことがある
・新たな性的関係を持つ相手ができた
・妊娠中
・悪性腫瘍や膠原病などに対する治療を開始する(この場合、後述のHBc抗体測定まで必要です)

なお、入院した場合、特に手術目的の際は、入院時検査の一つとして実施されていることがあります。これまでその結果を聞いたことがない方は、医師に尋ねてみてもよいと思います。
また、HBs抗原が陰性の場合は、B型肝炎ウイルスに感染したことがないか、B型急性肝炎治癒後のどちらかです。「HBs抗体」と「HBc抗体」を追加検査することで、この両者を区別することができます。検査の結果、以下で区別がされます。

(1)B型肝炎にかかったことがない場合、HBs抗体とHBc抗体は陰性。
(2)B型急性肝炎治癒後は、HBs抗体とHBc抗体は陽性。

この評価はB型肝炎感染予防(B型肝炎ワクチン接種)を検討する場合にも必要です。

予防の基礎知識

B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染します。代表的な感染のパターンは以下が挙げられます。

(1)B型肝炎ウイルスを持っている母親からの出産時産道感染
(2)B型肝炎ウイルスを持っている母親からの妊娠中胎内感染
(3)B型肝炎ウイルスを持っている家族などとの密接な接触
(4)コンドームを使用しない性行為
(5)B型肝炎ウイルスの付着したカミソリやピアスの穴を開ける道具などの使用
(6)血液に汚染された注射器の使用(覚醒剤注射)
(7)他の人の血液や体液に触れることがある職業

(5)や(6)はしなければ済む話ですが、(1)(2)(3)(4)(7)は避けて通れない場合があります。
B型肝炎ウイルス感染に関して、最も確実な予防方法はHBワクチン接種です。通常は3回(初回、1カ月後、6カ月後)の接種で、約95%の方にB型肝炎ウイルスを中和する「HBs抗体」が作られるようになり、その予防効果は20年以上(おそらくほぼ一生)続きます。もう一つの感染予防は、B型肝炎ウイルスに対する免疫グロブリン製剤(HBIG)注射です。注射直後より感染予防が可能ですが、3カ月程度で有効成分は失われてしまいます。
出産時産道感染の予防のためには、出生直後にHBIG投与を行ない、HBワクチン接種も開始します。それ以外はHBワクチン接種で感染を予防しますが、過去にHBワクチンを接種していなかった人がHBVに感染した血液に暴露された場合は、HBIG+HBのワクチン接種を行ないます。(2)の胎内感染は3.5%程度の頻度と言われていますが、残念ながら予防方法がありません。

日本以外の多くの国では、B型肝炎ウイルスワクチンがBCGや三種混合ワクチンと同様に、すべての乳幼児に接種されています。乳幼児期に感染して慢性化することへの予防や、思春期以降の性行為での感染予防を考えると、他のワクチンと同様にすべての乳幼児に接種することの意義は大きいと考えられ、日本でも実施が検討されています。

また、病気を次の段階に進めないようにすることは、すべての病気の治療で必要です。B型肝炎においては、急性肝炎の慢性化、慢性肝炎肝硬変への進展、肝臓がんの合併あるいは治療の遅れを防ぐことが重要です。私たち医師は、年齢、性別、生活習慣、合併症などを総合して検査や治療の方法を提案します。B型肝炎ウイルスに感染していることがわかったら、必ず定期的に病院を受診するようにしましょう。

柳田 公彦

解説:柳田 公彦
唐津病院
内科部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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