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2014.04.23

末梢神経障害

neuropathy

解説:衛藤 正雄 (済生会長崎病院 整形外科主任部長)

末梢神経障害はこんな病気

末梢神経とは脳や脊髄などの中枢神経から分かれて、全身の器官・組織に分布する神経のことです。末梢神経は、大きく以下の3つに分けられます。

・運動神経:全身の筋肉を動かす機能
・感覚神経:痛み、冷感、触れた感触など、皮膚の感覚や振動、関節の位置などを感じる機能
・自律神経:血圧・体温の調節や心臓・腸など内臓の働きを調整する機能

末梢神経障害とは、これらの神経がダメージを受け、働きが悪くなることで起こる種々の障害のことです。
主な症状は、それぞれ以下になります。

・運動神経の障害:手足の筋力が低下したり、筋肉が痩せてきたりする。
・感覚神経の障害:しびれや痛みが生じたり、逆に感覚が鈍くなったり、消失したりする。
・自律神経の障害:手足の発汗障害や異常知覚などがみられる。

これらの障害は単独で生じることもありますが、通常は複合されて症状が現れます。

また、末梢神経障害は、全身の末梢神経に多発的に生じる「多発性末梢神経障害」と、主に一つの神経に生じる「単末梢神経障害」とに分類されます。「多発性末梢神経障害」の原因は、糖尿病などによる全身の代謝性疾患、薬剤・重金属などによる中毒性疾患や感染性の疾患、及び遺伝性や特発性(原因が不明)のものなどがあります。「多発性神経障害」は、主に内科で治療が行なわれます。「単末梢神経障害」は、一つの末梢神経が周囲のなんらかの組織(靱帯・腱・骨・腫瘍など)に圧迫されて障害されるもので、「機械的神経障害」または「絞扼性(こうやくせい)神経障害」とも呼ばれます。整形外科では、主に「単末梢神経障害」の治療が行なわれます。

主な単末梢神経障害には、「橈骨(とうこつ)神経麻痺」「正中(せいちゅう)神経麻痺」「尺骨(しゃっこつ)神経麻痺」「腓骨(ひこつ)神経麻痺」などがあります。今回はこの4つについて、それぞれ解説します。

早期発見のポイントと治療法

橈骨神経麻痺

早期発見のポイント:手首が反らせない
橈骨神経は、腋(わき)から上腕の外側を回って前腕を走行しています。この上腕部でなんらかの圧迫(長時間の腕枕など)を受けると麻痺が生じ、手首が反らせない(垂れ下がったまま)ようになります。親指と人差し指の付け根の間に、感覚障害が生じることもあります。
橈骨神経麻痺はほとんどが自然に回復しますが、手首が垂れたままだと指に力が入らず、日常生活に困るので装具を付けます。また、麻痺した筋肉に低周波を当てて刺激し、筋肉が痩せるのを予防して神経の回復を図ります。完全な麻痺の場合、回復するのに数カ月かかります。

正中神経麻痺

早期発見のポイント:親指・人差し指・中指のしびれ
正中神経は、肘・前腕の手のひら側の中央を走行し、手首にある手根管(しゅこんかん)という骨と靱帯で作られたトンネルを通って、主に親指・人差し指・中指に分布しています。手根管での正中神経障害を「手根管症候群」といいます。最初の症状は、親指・人差し指・中指のしびれです。手首を手のひら側に強く曲げると、しびれが強くなったり痛みが生じたりするのが特徴です。進行してくると、親指の付け根の筋肉が痩せてきて、親指と人差し指できれいな丸(OKのサイン)が作れなくなります。妊婦や、手をよく使う労働をする人、手首の骨折の後などによく起きます。
症状が軽い場合は、薬(利尿剤:腫れをとる薬)で経過を見ますが、症状が強い場合や長く続く場合は、手根管を切開する手術を行なう必要があります。

尺骨神経麻痺

早期発見のポイント:小指・薬指のしびれ
尺骨神経は肘の内側を通り、前腕の小指側から手首を通って、小指と薬指に分布します。障害の多くは、肘の内側部分(肘部管/ちゅうぶかん)の圧迫によるものです。肘部管とは、肘の内側を硬いところにぶつけた時に、小指や薬指に電気が走るように感じるところです。麻痺の原因は、加齢とともに生じてくる関節の変形(変形性関節症)や、小さい頃に肘を骨折した後の変形、ガングリオン(良性のできもの)等による圧迫です。最初は小指と薬指にしびれが出ます。徐々にしびれが強くなり、小指の付け根の筋肉や、指と指の間の筋肉が痩せてきます。小指と薬指が完全に伸ばせなくなり、次いで指を開いたり閉じたりしにくくなり、さらには手の動きがぎこちなくなります。
症状が軽い場合はビタミン剤で経過を見ますが、症状が強い場合は神経移行術という、圧迫を取り除く手術が必要になります。

腓骨神経麻痺

早期発見のポイント:つま先が上がらない
腓骨神経は膝の裏側から外側に回り、膝外側の骨の出っ張り(腓骨頭/ひこつとう)の少し下を、腓骨に沿って前下方に回り下腿の前側の筋肉に分布します。腓骨神経はこの腓骨頭の部分で圧迫を受けやすく、足を深く組んであぐらをかいたときや、仰向けに寝て足を伸ばし、足を外に開いた状態で長くいると麻痺が生じます。歩くときにつま先が上がらず、膝を高く上げて歩かなければならなくなります。正座した後にも、足がしびれて力が入りにくくなりますが、この場合はすぐに回復します。腓骨神経麻痺の場合は、すぐには回復しません。
軽症の場合は、特に治療する必要はなく、自然に回復します。重症の場合は、足首に装具を付けたり、低周波治療や筋力強化訓練が必要で、回復には数カ月かかります。全く麻痺の改善がない場合は、筋肉を移行する手術を行なうこともあります。

予防の基礎知識

橈骨神経麻痺

上腕部の神経が長時間圧迫されることが主な原因です。腕枕をして寝たり、上腕中央外側部を圧迫するような格好を長時間しないことが重要です。

正中神経麻痺

「手根幹症候群」を予防する方法は特にありません。ただ、農作業など手首に負担のかかる仕事は、症状を悪化させることがあるので注意が必要です。

尺骨神経麻痺

尺骨神経麻痺を予防する方法は特にありませんが、小さい頃に肘を骨折して肘が変形していると麻痺が生じやすくなります。小指と薬指にしびれが出てきたら、すぐに整形外科の診療を受けましょう。

腓骨神経麻痺

膝の外側で神経を圧迫しないようにすることが重要です。高齢者で寝たきりの状態に近くなると、よく腓骨神経麻痺を起こします。家族が常に注意し、柔らかい枕などを膝の外側に当てて予防しましょう。

衛藤 正雄

解説:衛藤 正雄
済生会長崎病院
整形外科主任部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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