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アウトリーチの取り組み

特定非営利活動法人 
全国こども福祉センター

人知れず悩み、苦しみ、非行や自殺の一歩手前まで来ている。それなのに、相談する相手がいない、いや、相談しようともしない子ども・若者が増えている。そんな彼らに街頭で声をかけ、仲間となり居場所をつくる活動をしている団体がある。特定非営利活動法人『全国こども福祉センター』(名古屋市中村区)だ。非行や犯罪など、起きてしまった現実から救うのではなく、「予防」を目的とした福祉活動とはいかなるものか。活動の中心となる「路上パトロール」に同行した。

非行防止を呼びかける子どもたち

JR名古屋駅西口。新幹線改札(太閤通り口)を出てすぐの噴水前広場が、彼らのメインステージだ。週に一度、たいていは土曜の18時から20時くらいの間、黄色や緑の派手な着ぐるみを着た集団が現れる。ピカチュウ、ドラえもん、ハローキティなどのキャラクターに身を包んだ10代から20代の学生たち。プラカードを掲げる者、募金箱を持つ者、ポケットティッシュを配る者。彼らは横一列に整列して、繁華街に吸い込まれていく人の流れに声をかける。
「こんばんは、こども福祉センターです。子どもの非行予防の活動を行っています。街頭募金の協力お願いします」

名古屋駅前で声かけを行う学生たち。色とりどりの着ぐるみ姿が通行人の目を引く名古屋駅前で声かけを行う学生たち。色とりどりの着ぐるみ姿が通行人の目を引く
名古屋駅前で声かけを行う学生たち。色とりどりの着ぐるみ姿が通行人の目を引く

これが、平成25年から続いている全国こども福祉センターの「路上パトロール」だ。ほとんどの人は目もくれずに通り過ぎていく。募金する人などいないと思いきや、5年間の積み重ねだろうか、何人かの人が「頑張ってね」とねぎらいながら小銭や千円札を投じていく。
もちろん、活動資金集めのために立っているのではない。苦しい、死にたいと思っても自分から相談できない、あるいは相談する相手を持たない子どもや若者と接点を持つことが、このパフォーマンスの目的だ。中にはティッシュを配る姿も見られる。
「何も持たずにいきなり声をかけるのは難しいです。だから、何らかのきっかけが必要で、それがポケットティッシュ。僕はまだできないけど、慣れてくるとただ手渡すのではなく、『これからどこ行くの?』『危ない店あるから気をつけて』などと注意喚起できるようになります」
ボランティア参加の男子学生が教えてくれた。中にはそれに反応する子がいる。口には出さなくても、寂しいとか、仲間が欲しいというオーラを発する子がいたりする。そういう子との“出会い”のために、彼らは寒風吹きすさぶ名古屋駅の広場に立っていた。

配布するティッシュには全国こども福祉センターの紹介チラシも入っている
配布するティッシュには全国こども福祉センターの紹介チラシが入っている

身の丈に合った支援を

東口と西口で全く景色の異なる駅は少なくないが、名古屋駅はその代表格だろう。再開発が進み、超高層ビルが林立する東口はオフィス街。一方の西口は、かつての闇市や歓楽街の名残りか、夜はネオンまたたく繁華街となる。一歩奥へ入れば風俗店が軒を連ね、ひところ世間を騒がせたJKビジネス(女子高生による密着サービス)や、援助交際の温床といわれる相席空間(女性は無料)などの店もある。
彼らが着ぐるみを着て立っているのはもちろん西口である。
路上パトロールの成果を見極めようとティッシュ配布の動きを注視していると、不特定多数に配るのではなく渡す相手を絞りこんでいることに気づく。ターゲットは、私服になってもまだ幼さが残る中高生や、同年齢の子をもつ親たちだ。配り手の中に一人、相席空間の客引きの何倍ものフットワークとテンションで雑踏に分け入る人がいた。ガチャピンの着ぐるみに身を包んだその人こそ、全国こども福祉センター理事長の荒井和樹さんだった。

「困っている子を人々の中から探し出して、『お前困ってるだろう、支援につないでやろう』なんておこがましいことは考えていません。子どもたちが困っているときに都合よく関われるなんて、僕は思ってないから。自分たちのできる範囲で、身の丈にあったサイズで、支援というのはおこがましいけれど何かできることを一緒に考えたい。活動メンバーはほとんどがボランティアの大学生か、声かけによって仲間になった高校生たちです」


アウトリーチは諸刃の剣

名古屋駅に近い、1階がゲームセンターになっている古びたマンション上階の事務所で荒井さんにお話を聞いた。まず聞いたのは、全国こども福祉センターの特徴である「アウトリーチ」について。アウトリーチとは英語で「手を伸ばす」という意味。施設・拠点型の待つ支援ではなく、電話による相談でもなく、SOSを自分から発信できない子どもたちの世界に自分から飛び込んでいく手法をいう。子ども・若者を対象にアウトリーチを実践している団体は、国内ではここだけだという。
「アウトリーチは直訳すると介入になります。ということは、相手が望んでもいないのに、土足で人の家に上がるような行為になりかねない。諸刃の剣ですね。路上で声をかけるといっても、正直僕らも本人が困っているかどうかの正確な判断はできません。関わっていく中で、情報を得て一番よくないのは、なんでもかんでも支援や病院につなごうというアウトリーチです。精神分野だと、全員施設や病院につなげばいいことになってしまう」

インタビューに答えてくれる荒井さん。派手な見ためと穏やかな笑顔が印象的だ
インタビューに答えてくれる荒井さん。派手な見ためと穏やかな笑顔が印象的だ

髪型は一見ホスト風、自ら“チャラいでしょ”と言ってのけるが、その素顔は日本福祉大学を卒業し、社会福祉士、保育士の資格を持ち、地元の同朋大学や愛知江南港南短期大学などでは非常勤講師を務める子ども福祉の専門家だ。見ための軽さは着ぐるみと同じで、子どもや若者との距離を縮めるための手段と考えるべきだろう。
「学生時代から人の成長に関わる仕事をやりたかった。でも、学校の教員とはちょっと違うんですね。学校以外で、子ども・若者の成長に関われる仕事って何だろうと考えた結果、今の活動になった」と自身を振り返る。大学卒業後は児童養護施設に就職。4年半後に任意団体として活動を開始した。


予防に力点を置いた福祉活動

活動内容は今と大きく変わらず、声かけボランティア、街頭募金、バドミントン、季節行事などからスタートした。当時は東日本大震災に触発されボランティア活動が一気に花開いた時期で、参加者は3カ月で400人を超えたという。翌年に法人登記を完了。「子ども虐待防止世界会議名古屋2014」に選出されるなど、活動は徐々に本格化していく。2014年に事務所を現在地に移し、路上パトロールと、インターネット上(SNSなど)で事件や犯罪につながるような書き込みがないか巡回を行うサイバーパトロールに着手。子ども若者支援を中心とした自立支援マネージャー養成講座とシェルター事業、居場所づくりとしてフットサルコミュニティーの運営を始めた。居場所づくりに参加した10代から20代の子ども・若者は延べ9,000人以上という。
「路上に出ている子は行動力のある子だから、自殺はないだろうしまだ安心だと、引きこもりの子と路上の子を分けて考える傾向があるけれど、僕は一緒だと思っています。日々の生活の中でにっちもさっちも行かなくなってから引きこもってしまう。つまり、状況が悪化してから引きこもりになる。大事なのは、そうなる前に手を差し伸べることだと思う」と、活動の第一義は「予防」にあると強調する。

路上パトロールに参加したボランティアの中に、1人だけ背広姿で参加している人がいた。岐阜市で保護観察官をしている松尾祐輔さんだ。「日頃から非行や犯罪を犯した後の対処をしている保護観察官にとって、予防のための活動が新鮮に映りました。行政は予防には消極的です。なぜかといえば、成果が見えないからお金をかけられない。そういう意味で意義があると思いました。それと、子ども自身が活動に参加していることですね。大人がやるよりずっと効果的ではないかと思います。ボランティアで来ている子と、路上で声をかけられた子がひとつになって活動しているのもいい」
松尾さんは1年ほど前からプライベートで参加し、今では荒井さんの右腕的存在となった。岐阜から名古屋まで自腹で通っているという。

着ぐるみを着た荒井さんと松尾さん
着ぐるみを着た荒井さんと松尾さん(右)

貧困ビジネスと支援ポルノ

インタビュー中、荒井さんから何度も出てきた言葉があった。「貧困ビジネス」と「支援ポルノ」である。貧困ビジネスとは、生活保護受給者やホームレスをはじめとする貧困層を標的として、さまざまな手口で金を稼ぐこと。支援ポルノとは、助けてあげるからと弱者にすり寄り、求めてもいない支援を押し売りする行為のことで「助けたいハラスメント」ともいう。どちらも支援団体が組織運営上陥りやすい。
「例えば今だと、性産業に取り込まれていく少女を救うためと言いつつ、実のところ自分たちの組織を維持するため、少女に声をかけていったり貧困対策に参入したりしていく。そういう団体はメディアに紹介されることで正当化され、結果として行政の補助を得るような事例がたくさん見られます。福祉って、課題が増えれば増えるほど自分たちの既得権益が増えるんです。でも、業務委託や指定管理をとることより本来、制度化されてないことをやるのがNPOだと思う。でも、そこを応援する仕組みが日本には整ってない」

もっと活動の輪を広げたい。それには、メディアやマスコミへの露出度を上げることも考えねばならない。しかし、そうすることで活動の本質を失い、貧困ビジネスや支援ポルノに落ちたかと思われる団体をいくつも見てきた。ここに荒井さんのジレンマがある。
「SNSがらみの事件が起きると、メディアからコメントを求められます。先の座間9遺体事件でも、多数のメディアの取材を受けました。ただ、メディアが本当に欲しいのは子どもたちの実例なんですね。そんなこと(実例の提供)はできないから、僕は何度も事後対策ではなく予防が必要なことを訴えました。しかし、その部分を放映したのはNHKのみでしたね」


戻れる場所と仲間がいること

着ぐるみの整列が突然乱れ、歓声を上げておしゃべりの場となることがある。かつて同じように活動に参加していた子が、訪ねてきたときだ。そんな光景を何度も見た。友達を連れて荒井さんに会いに来る子もいる。荒井さんが一番うれしい顔を見せるのはそんなときだ。
「活動からしばらく離れていたということは、自分なりに居場所を見つけられたからだと思うんです。そこでまたトラブルが生じたとして、また戻ってこれる場所があり、迎えてくれる仲間たちがいることが大事。だから僕らはいつも同じ場所で活動している。」

学生たちは寒さにも負けず、毎週路上パトロールを行う
学生たちは寒さにも負けず、毎週路上パトロールを行う

路上パトロールの目に見える成果があるとすれば、それは声かけした子とボランティアとの間に仲間意識が生まれ、その子が活動の輪に加わることだ。年にせいぜい2~3人という。しかし、アウトリーチの本領は目に見えないところにある。路上で声をかけられた1人の中高生からいろいろな子どもたちにつながっていく。フットサルやバドミントンに参加した子に共通の居場所ができる、こうした目に見えない成果が活動の推進力になっている。
路上パトロールが始まってから40分が経過した。防寒コートを着ていても、3月の路上の寒さは骨身にしみる。ボランティアの若者たちはさておき、ワイシャツの上に薄い着ぐるみをまとっただけの荒井さん。あと1時間も頑張るのかと思うと、その体力と気力から彼の熱意がヒシヒシと伝わってきた。

「この歳で路上に出るのはきついし恥ずかしいですよ。40歳になってこの活動をやっているかというと、どうでしょうか。食べていけないことは確かですね。これからはアウトリーチを体系化したり、大学教育の中で反映できるよう、実践を形にしようと奮闘していくかと思います。でも、予防のための活動は僕のライフワークであり続けると思います」
そういうと、また軽やかなステップで若者たちの輪に戻っていった。

特定非営利活動法人 全国こども福祉センター
社会から遠ざかっている、困難を抱えていても自分から相談できない子どもや若者に、こちらからアプローチをしてお互いに歩み寄るための働きかけを行う団体。国内で唯一、アウトリーチ(直接接触型)、デタッチドワーク(若者の中で行う活動)を先駆けて実践し、全国の子どもや若者に直接的なかかわりを持ちながら活動を行っている。

活動拠点: 愛知県、東京都

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