社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2024.09.04

吉岡 更紗 さん

吉岡 更紗 さん

1977年、京都府生まれ。幼い頃から家業に興味を持ち、2008年から父・吉岡幸雄のもとで染色の仕事に就く。2019年9月に父が心筋梗塞のため急逝し、「染司よしおか」6代目当主に。糸から染める経験も豊富な染織家であり、国宝の復元にも携わる。著書に『新装改訂版 染司よしおかに学ぶ はじめての植物染め』『「源氏物語」五十四帖の色』(原著・吉岡幸雄/ともに紫紅社)がある。

古社寺の伝統行事で用いられる染和紙を長年手がける染織工房「染司よしおか」。6代目の吉岡更紗さんは職人でありながら、父の急逝に伴い5年前から工房と店舗の経営も担っています。家業に対する想(おも)いについて聞きました。

 京都市伏見区にある工房では、紫草(むらさき)の根や紅花の花びら、茜の根、刈安の葉と茎などの植物から抽出した染料のみで、奥深い温もりを感じる美しい色が生み出されている。「昔から染料として記録されている植物以外は使わないと決めています。化学染料をやめる決意をしたのは、5代目だった父です。私も、古(いにしえ)から伝わる染料に大きな価値を見いだしています」と穏やかな口調で話す吉岡更紗さん。

 大学卒業後はイッセイミヤケの販売職を経て、家業を継ぐために父のすすめで愛媛県西予市野村シルク博物館で染織技術を一から習得。「古布など古いものにたくさんふれてきた父の姿を通して、ものの良し悪しを見極める力も養われました。さまざまな経験をし、自分の思いを全面に出してアレンジするよりも、ブラッシュアップしつつ、スタンダードなものづくりをするほうが私は好き、と思うようになっていきましたね」

 東大寺二月堂の修二会や薬師寺の花会式、石清水八幡宮の石清水祭などで必要な染和紙を納めるために、染料にする植物の収穫にも出向く。「伝統行事に関わる仕事は、私たちの都合で中断するわけにはいきません。『変わることなく継承する』という強い意思を持って取り組んでいます」

文:木元優子 写真:馬場稔子(機関誌「済生」2024年9月)

染司よしおか

染司よしおか

江戸後期から200年以上続く京都の染織工房。絹や麻、木綿、和紙などの天然の素材を自然界に存在する植物と地下100mから汲み上げた伏見の水を用いて、手作業で一つひとつ染める。5代目の吉岡幸雄氏は出版・広告・催事の世界で才能を発揮する一方で、同工房の染師・福田伝士とともに日本の伝統色の再現に尽力した。京都市東山区には店舗「染司よしおか京都店」を構え、植物染ならではのやさしい色合いのストールやバッグ、小物などを販売。

吉岡 更紗 さん


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