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済生春秋

第67回 予測と対策の法則

 誰でも困難なことを予測し、対策を準備する。
 20年以上前のずいぶん昔のことだが、忘れられない不愉快なことが起きた。
 西日本のある都市から人権に関する講演の依頼を受けた。たくさんの人に人権を理解してもらうことは望ましいので、進んで引き受けた。すると講演の前日、自宅の電話に野太い声で「ここへ来るのは止めろ。そうでないと......」と言って、一方的に切った。
 私の電話番号をどのように知ったのか不気味だった。当日、主催者に伝え、注意してもらった。
 講演の間、最前列中央で睨(にら)みつけるようにじっと聞いている中年男性が目に入り、話に集中できなかった。何を話すのか耳をそばだて、戦闘態勢である。講演が終了するや、その男性がツカツカ寄って来た。一瞬、身体がこわばったが、主催者の人がさっと男の前に立ちはだかってくれた。男は、何をするのでなく帰って行った。私たちは、予測をしていたので、適切に対応できた。

 しかし、人生において災害や事故のように予測が困難なことに遭遇する。
 最近発生する災害は、これまで経験しない強大さだ。9月上旬に発生した台風21号は、近畿地方を中心に大きな被害を残した。関西空港が冠水、道路を走るトラックが横転、自転車置き場が吹き飛んだ。
 最近の天気予報は、正確になった。気象庁は、「経験したことのない風雨が予想される」と警告を発する。これは国民が準備するのに有効だ。災害は強大になったけれど、被害を抑えるのに貢献している。

 40年前に福井県庁に出向していたとき、公用車に乗っていて追突事故に遭った。
 交通信号が赤で停車していると、ガツンと追突された。その直前まで全く予想していなかったので、完全な不意打ちである。むち打ち症になり、今でも季節の変わり目に首が痛む。
 追突を予測し、身構えていたら被害が少なくなると思っている。今は、信号待ちしているときは、ぶつけられるかもと、首や足に力を入れることが習慣になった。
 
 いつの時代も新しい現象に驚き、人々は、右往左往する。現代は、変化のスピードが速く、驚くことの続出である。予測は、困難である。
 失敗するのは、ぼんやりと油断していたときだ。予測していても、予測通りにならないのが常である。でも予測していると、心のほうは、準備しているので、苦境は必ず克服できるというのが、私の経験則である。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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