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済生春秋

第69回 ソウルの秋

 短期間でも旅行は、日常生活から離れ、刺激を受け、貴重な経験を得る。
 吉田松陰は、豊富な読書と旅によって人間形成をした。若いころ、藩の許可を得ないで長期に及ぶ東北地方の旅に出て、見聞を広めた。松陰は、優れた人物がいれば、距離を厭(いと)わず、訪ねて教えを乞うた。

 知らない土地の旅だと失敗や犯罪の危険が伴う。特に海外では危険性が高い。私の若いころの海外旅行は、失敗の連続だったが、それが貴重な経験になった。
 しかし、今の私は、そのようなリスクに耐える体力がないので、無理を避け、楽なスケジュールにするようになった。

 9月下旬、3泊4日で韓国へ出かけた。障害者や元受刑者などに就労の場を提供するソーシャルファームを調査するためだ。
 外国旅行に精通した日本障害者リハビリテーション協会の寺島彰さんと野村美佐子さんと一緒で、これで4度目、心強いメンバーだ。さらに、滋賀県大津市で障害者による菓子の製造販売等を展開している(社福)共生シンフォニーの中崎ひとみさんが加わった。
 ある会合の席上で「今度、韓国の調査を計画している」と中崎さんに何気なく話すと、即座に「私も行く」と答えられた。聞くと、韓国に頻繁に訪れ、幅広い人脈を持っているという。アポイントの取り付けをしてくれたうえ、現地では案内役を買ってくれた。彼女と親しい訪問先の人は、親切で、おかげで調査目的を十分に果たすことができた。

 韓国へは6回目の訪問になる。いずれも仕事だった。訪問する都度、異なった印象を持つ。高い経済成長のときは、ソウル市内は活気で充満していた。韓流ドラマの人気があったときは、日本人の女性観光客が目立った。
 今回は、日本人の旅行者が少なく、代わって中国人観光客の集団に出会った。国際情勢の変化を感じる。

 ソーシャルファームに関心を持つ妻が、同行することになった。以前に2度、韓国の大学や福祉団体の依頼の講演では妻も一緒に招かれた。今回は、妻とは3度目の韓国旅行になる。講演という義務がなかった分、気楽だった。
 やはり家族一緒の旅行は、楽しい。秋のソウルは、穏やかな天候だった。事前に韓国の歴史や社会を勉強したので、興味が倍加した。
 今の私の海外旅行は、尊敬している松陰の武者修行のような旅とは、全く異なるスタイルになっている。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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