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済生春秋

第79回 私の在庫管理

 在庫管理といってもビジネスの話でない。マンションの部屋のモノの整理である。
 久方ぶりに高校時代に同学年だったAと会った。
「退職後は年に1回は、家内と海外に行っている」と楽しそうに話した。最近は、年賀状の交換をやめたと続け、「断捨離を徹底して、家の中をすっきりさせている」と生活スタイルは、すっかりスリム化したようだ。20年前のギトギトした営業マンの姿は、Aから消えていた。

 私も狭いマンションに住んでいるので、断捨離をしたいと衝動に駆られる。時々試みるが、いつも途中で挫折する。
 「捨てるのはもったいない」、「いつか役に立つのでは」、「思い出の品だ」といった気持ちが交錯する。実際、長い間見なかった資料を捨ててしまった場合に限って、その直後にそれが必要になってくるから不思議だ。

 「もったいないの精神」は、悪いことではない。昔からの日本人の美徳だったはずだ。
 環境事務次官在職時にノーベル平和賞を受けたワンガリ・マータイ女史が来日したとき、日本人の伝統的である「もったいないの精神」は、環境保全のために素晴らしい価値だと絶賛した。これに共鳴した当時の小池百合子環境大臣は、「もったいない精神」を内外に普及するために努力された。

 私のように、昭和20年代の物資が不足し飢えの時代を経験している者は、モノを大切にする精神が体に染みついている。
 マンションの部屋を時々整理する。断捨離であれば、捨てるだけだが、そこまでは踏み込めない。新たにモノを買うのをおさえ、保有しているモノを活用していくという方針に切り替えた。

 保有している膨大な資料(たいがい袋に入っている)の内容と保管場所をパソコンにインプットしている。これは結構楽しい作業である。自分の仕事や活動の歩みが分かるからだ。資料の保有状況が分かると、利用も促進される。
 箱の中には未使用の切手がたくさんある。30年分くらいのお年玉年賀葉書の賞品の切手だが、これを使用するために私製葉書にした。毎日せっせと葉書を書いているが、完全に使い切るには、10年はかかりそうだ。
  
 このようにいろいろと工夫をすると、在庫管理もなかなか捨てたものでない。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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