社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)
済生春秋 saiseishunju
2021.08.02

第102回 社会活動寿命

 自分の人生で大きな影響を受けた人は、何人かいる。磯村英一先生がその一人である。日本の社会学界に偉大な足跡を残した。特に部落問題や都市スラム問題では、先達者と言える。
 晩年、先生は、「人権について共著をだそう」とよく誘ってくれた。勉強不足で自信のない私は、いつも「少し待ってください」とずるずる先延ばし、絶好の機会を逃してしまった。
 94歳で亡くなるまで研究を続け、全国各地で精力的に人権啓発活動に励まれた。この情熱にはいつも驚嘆したが、「自分がやらなければ」という使命感を持っておられたのだろう。
 
 静岡県在住の神田均さんは、時々、福祉研究リポートを送ってくれる。
 テーマは、災害被災者、障害者、貧困者など範囲が広い。独自の視点からの考察は、鋭い。県庁職員として福祉一筋の経験、退職後の福祉教育やボランティア活動が基礎にあり、バックボーンがしっかりしている。回想録や自慢話ではなく、現在の福祉課題に対する提言である。
 90歳を過ぎたのに丁寧な手書きの長文である。今でも静岡県ボランティア協会相談役などの肩書で活動する現役のソーシャルワーカーと言える。福祉への情熱は衰えを知らない。

 WHOは、生物としての寿命のほか、健康寿命の重要性を提唱した。これに加えて社会活動寿命も大切ではないだろうか。
 人は、仕事、ボランティア活動、社会参加活動などで社会と接点を持って生活し、社会に貢献し、生き甲斐(がい)を感じる。

 しかし、人の選択は、様々だ。最近、暑中見舞いをいただいた。末尾にこれから年賀状の交換を遠慮したいと記されていた。私と同年齢だが、最近は年賀状だけのつながりだった。  
 会社を立ち上げて成功し、これからは煩わしい世間から離れ、湖を見下ろす自然環境の優れた高級マンションに転居して優雅な生活を送る計画だ。 
 クルーズで世界の旅を夫婦のんびり楽しむ人もいる。週2回ゴルフに興じ、趣味三昧の生活に浸る知人もいる。
 いずれも私には無縁の世界だ。自分は自分の信じる道を歩いていくだけだ。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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