社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2021.10.04

第104回 MOTTAINAI(もったいない)

 ノーベル平和賞を受賞したケニア出身のワンガリ・マータイさんが来日したときに「日本語のMOTTAINAI(もったいない)は、素晴らしい言葉だ。環境のために世界に広めたい」旨の発言をした。
 当時、環境行政の仕事をしていたので、マータイさんの発言は、力強い援軍だった。
 マータイさんは、MOTTAINAIには3Rの観点だけでなく、ものに対する敬意が含まれていると述べた。偉い人から声をかけられると、「もったいないことです」と応答するから、マータイさんの指摘は、正鵠(せいこく)を得ている。
 こんなときにいつも「日本国語大辞典」(小学館)を頼りにする。「使えるのに捨てるのが惜しい」という使い方も「おそれ多い」という使い方も14世紀の文献の文例が掲載されているので、古くから存在し、日本人の国民性になっているのだろう。

 私は、いつも「もったいない」精神で日常生活を送っている。ボールペンやノートを最後まで使い切らないと気持ちが悪い。ものは、簡単に捨てられない。部屋の片隅に雑多なものが積み上がる。
 最近たまってくるものに、クリアファイルがある。書類がクリアファイルに収められて郵送される。書類保護のためだが、重要な書類でなくてもクリアファイルに入っている。送付者は、丁重に書類を扱っていると伝えたいのだろうが、私は、いつも「無駄な配慮だ」と思ってしまう。
 国家公務員のとき、国会議員に説明に行くときは、いつも大型の封筒に入れて書類を手渡した。1枚だけの書類のときさえそうだった。
 省資源を担当する環境省の幹部としては、捨てられる運命の大型封筒を使用することにいつも疑問を感じていた。某元総理は、「もったいないから」と言って封筒を返してくれた。

 最近の日本社会を観察すると、飢餓で苦しむ人がいるのに、たくさんの食品が廃棄される。ビニール傘は、にわか雨の1回だけ使って、駅の片隅に捨てられる。
「もったいない」は、死語になり、これから改定される国語辞典から削除される運命だろうか。
 1970年代の大手広告会社の戦略10訓に「もっと使わせろ、捨てさせろ、無駄使いさせろ」があった。この戦略は、半世紀かけて達成したのだろうか。
 叶(かな)うならマータイさんが天から日本人に一喝して、MOTTAINAI精神を思い出させてほしいものだ。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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