社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2023.05.29

第124回 早寝早起き

 ラジオの深夜放送を聞きながら、受験勉強をしていた時期があった。
 当時住んでいた富山県高岡市では東京からのニッポン放送や文化放送の電波は弱く、時々雑音が混じり、音声が途絶えた。ラジオに耳を近づけてかすかな音を聞き取ろうとした。
 みんな眠ってしまった深夜、ラジオの声だけが一緒に起きている友達のように思えた。深夜の孤独な受験勉強に小さな楽しみを与えてくれた。

 若いころから夜型だった。国家公務員だったころは夜遅くまでの仕事は、苦痛ではなく、やりがいを感じた。夜11時過ぎまで酒を飲みながら歓談する日も少なくなかった。
 一方で朝が早い仕事があると、つらかった。国会開催中は朝7時から国会答弁のための大臣説明が入ることがあった。特に課長時代は、深夜に及ぶ答弁作成のうえ、翌朝は家を6時前に出なければならなかった。こんな日は、一日中体も頭も重かった。

 2年前に健康関係の本を読んでいたら、睡眠は長さとともに就床時間が大切であると述べてあった。夜12時以降の就床は、ホルモンの関係で心身の安定から勧められないという。
 そこで11時前には就床する生活スタイルに切り替えた。若いころと違って夜になると自然に眠くなる。若いころは想像できなかったが、今では11時頃にはすでに熟睡状態である。
 自分の心身の変化を注意深く観察していると、各段に好調である。朝は自然に5時には決まって目が覚める。旅先でもモーニングコールをセットすることは不要になった。

 早起きをして家族や近隣に迷惑をかけたくないので、静かに2紙の新聞を隅から隅までじっくりと読む。学生時代のように赤色のボールペンで重要箇所にラインを引きながら精読する。理解が進み、記憶に残る。朝の時間がたっぷり取れるようになったからである。
 メールを開くと、深夜2時の着信がある。こんな遅くまで起きていて大丈夫かと、以前の自分の姿と重ね合わせる。
 この人にも早寝早起きを勧めたくなるが、やっぱり今の忙しい日本では無理だろう。
「あなたのような暇人と違うのだ」と言われるのが落ちか? 

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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