社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

済生春秋 saiseishunju
2021.01.29

第96回 雑誌の愛読者

 小学生や中学生のころ学習研究社(現在の学研)の「○○年コース」という雑誌を買ってもらった。毎月雑誌を開くのが楽しみだった。学校の勉強と劣らない学力を養ってくれた。今でも雑誌で学んだ諺(ことわざ)などを記憶している。
 付録に立派な参考書が付けられていた。これで副教材は十分だった。中学1年の4月号の付録の英和辞典は、中学3年間、ずっと使った。

 今でも週刊誌、経済誌、総合雑誌、専門誌など種類を問わないで読むのが好きだ。
 近所の区立図書館に行けば、たくさんの雑誌が並べてある。日曜日の半日、次々に取り出して読むと、ぜいたくな気分になる。
 新幹線の中でも1冊の雑誌があれば、退屈しない。単行本よりも雑誌の方が良い。車窓を眺めながら気楽に読める。
 総合雑誌や経済誌などでは、編集長が時代の動きをどのように認識しているか、雑誌の構成を見るとわかる。自分の認識と違うのも勉強になる。
 新しい分野の仕事に取り掛かるときは、その分野の代表的な雑誌10年分くらいのバックナンバーを読むことにしている。その分野の状況や課題を的確に把握できる。臨調で活躍した瀬島龍三がシベリア抑留から帰国後、図書館で過去の新聞を読んで、時間の空白を埋めたという逸話からヒントを得て始めたが、効果はてき面だ。

 しかし、近年、雑誌の廃刊が増えたのは、寂しい。
 長い間、雑誌を発行してきたいくつかの福祉団体が、購読者数の減少で廃刊に追い込まれている。最終号に掲載される編集長のあいさつ文は、無念さが滲(にじ)み出ている。「休刊」としているが、「できれば将来に復刊も」とかすかな希望を表しているのが物悲しい。
 私は、福祉などの雑誌に時々原稿を掲載してもらうことで成長してきた。1回分は400字詰原稿用紙で10~20枚程度だから、何とか書ける。
 短いと言っても、参考資料を収集し、咀嚼(そしゃく)してまとめるとなると、大変なエネルギーを要する。書き終わるとほっとするが、2~3時間は頭が働かなくなる。この積み重ねが良い勉強になってきた。
 雑誌の廃刊でこのようなチャンスが減少している。若い人にとって発表する場が縮小することは、痛手である。

 ネットでは誰でも自由に書くことができる。しかし、雑誌に掲載される原稿は、雑誌が培ってきたブランドに支えられ、輝いて見えるだけでなく、社会に対する影響は、強いように思える。
 でも、もしかしてこの感覚は、時代遅れなのだろうか。

炭谷 茂

すみたに・しげる

1946年富山県高岡市生まれ。69年東京大学法学部卒業、厚生省に入る。自治省、総務庁、在英日本大使館、厚生省社会・援護局長などを経て2003年環境事務次官に就任。08年5月から済生会理事長。現在、日本障害者リハビリテーション協会会長、富山国際大学客員教授なども務めている。著書に「環境福祉学の理論と実践」(編著)「社会福祉の原理と課題」など多数。

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