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2022.06.30

“沈黙の臓器”、肝臓の声を聴こう! ~増加する「NAFLD」と「NASH」の最新診断方法~

栄養の代謝や解毒など人体にとって大切な働きをする肝臓。病気になって放置していると、最悪の場合は生命に危機が及びます。昨今増加しているNAFLDとNASHについて、身体への負担が少ない診断方法を開発した吹田病院名誉院長の岡上武先生に解説してもらいました。

“沈黙の臓器”が病気になると…

肝臓には痛みを感じる神経が通っておらず、病気によって機能が低下しても自覚症状が出にくいという特徴があります。肝臓が“沈黙の臓器”と呼ばれるゆえんです。逆に何らかの症状を感じたときは、すでに病気が進行していることが多いです。

肝臓病の多くは「脂肪肝・肝炎」「肝硬変」「肝がん」の3段階で進行します。

過剰な飲酒や過食による肥満、生活習慣病、薬剤などが原因で、中性脂肪が肝臓にたまった状態を「脂肪肝」と呼び、脂肪肝から肝炎に進行する可能性もあります。
肝炎には6カ月以内で治る「急性肝炎」と、それ以上持続する「慢性肝炎」があります。慢性肝炎が長期にわたって続くと、肝細胞に硬い組織ができていきます。これを「線維化」と呼びます。線維化が進むと、肝臓が硬く小さくなり肝硬変を呈します。線維化の程度はf0~f4の5段階に分かれ、f0では線維化はなく、f4は肝硬変を示します。肝硬変になると肝がんが発生する危険性が高まります。

肝炎の主な原因は以下になります。
・肝炎ウイルス(A、B、C、D、E型)
・アルコール性肝障害(ALD)
・非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD=ナッフルディー)

このうち、A~E型の肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎は、治療薬の進歩で患者数は大きく減少しています。また、過剰な飲酒によって起こるアルコール性肝障害の患者数は日本で200~250万人と推定されており、横ばいで推移しています。

その一方で、患者数が増えているのがNAFLDです。NAFLDの発症には多くの因子が関与しています。

増加する「NAFLD」と「NASH」

NAFLDとは、飲酒歴がない、あるいは少量しか飲酒しない人に脂肪肝ができる病気です。肥満や糖尿病脂質異常症高血圧などの生活習慣病がある人に多いのが特徴です。軽いものも含めると、日本では推定2000万人がNAFLDといわれています。

NAFLDによる脂肪肝が進行し、肝組織に炎症が起きると非アルコール性脂肪肝炎(NASH=ナッシュ)という状態になります。日本のNAFLD患者さんのうち15%、つまり300万人程度がNASH患者さんです。NASH患者さんのうち3~4割が肝硬変になり、最後は肝不全肝がんで亡くなる可能性が高くなります。

世界的にもNASH患者さんは増加しており、アメリカでは数年前から肝移植を必要とする病気の中でNASHが最多になっています。日本でも生活習慣病の人が増えていることに加え、日本人の4人に1人がNASHになりやすい遺伝子を持っていることが分かっているため、注意が必要です。
そこで大事になるのがNAFLD患者さんの中からNASHの人を特定することですが、NASHは自覚症状が少なく、診断が難しいとされています。

現在、NAFLDやNASHの確定診断には、肝臓の組織片をとって調べる肝生検が行なわれています。ただ、肝生検は入院が必要で、腹部に針を刺す(肝生検針)など患者さんへの負担が大きい検査法です。
さらに肝生検で採取する組織は肝臓全体の5万分の1の量。そのためNASH患者さんの肝臓の線維化の程度(f0~f4)を判定する際も採取する場所によって結果が異なったり、医師の主観に左右されたりするという欠点があります。

そうした課題を解決するために、吹田病院の岡上名誉院長らがAI(人工知能)を活用した画期的な診断方法を開発しました。診断する医師によって所見に差が出ることなく、簡単にNAFLDの鑑別やNASHの線維化の程度を診断できる方法として注目されています。

AIで負担なく素早く的確に診断

開発したのは、NAFLDとNASHの診断ができる「NASH-SCOPE(ナッシュ・スコープ)」と、NASHの線維化の程度が分かる「FIBRO-SCOPE(ファイブロ・スコープ)」です。肝生検で診断した324例のデータをもとに3年がかりで仕組みを構築しました。

「NASH-SCOPE」は、性別・年齢・身長・体重・腹囲・AST(GOT)・ALT(GPT)・γ-GTP・PLT(血小板数)・T-Cho(総コレステロール)・TG(中性脂肪)の11項目の数値を入力すると、AIがNASHかどうかを判定します。精度は高く、肝生検による専門医の診断と95%以上一致したということです。
「NASH-SCOPE」でNASHと判定されると、次は4型コラーゲン7Sの値を「FIBRO-SCOPE」に入力します。すると、NASHの線維化の程度を正確に導き出します。NASH患者さんの予後(発症後に生命を維持できるかどうかの経過)を左右するのは線維化の程度のため、この判定結果が非常に重要になります。

「NASH-SCOPE」の入力時間は1分以内。入力する数値は血液検査で簡単に分かる値です。AIによる判定では患者さんの負担はありません。

このように早くて簡単に判定結果が分かる「NASH-SCOPE」や「FIBRO-SCOPE」ですが、診断はもちろんのこと、治療効果の判定にも利用できます。線維化の程度は運動療法や食事療法によって改善が見込めるため、治療の効果を見極める際にも役立ちます。

現在、このAI診断は吹田病院や福井済生会病院など一部の医療機関でしか利用されておらず、公的医療保険も適用されていません。それでもAI診断の費用は1回につき千~数千円程度で、数万円かかる肝生検に比べて安価です。今後、AI診断が広まると、患者さんの負担が軽減されるほか、医療費の削減にもつながると期待されています。

<肝臓は人体の「総合化学工場」>

肝臓は胸の下の肋骨に守られた位置にあり、およそ2500億もの肝細胞が集まった大きな臓器です。重さは成人男性で1.2~1.5kgで、脳と同じくらいです。
肝臓は、肝鎌状間膜(かんかまじょうかんまく)を境にして、右葉と左葉に分かれます。周辺には胃や膵臓(すいぞう)、胆のう、十二指腸、脾臓などがあります。
再生能力が非常に高いのも肝臓の特徴で、手術などにより3分の1の大きさになっても数カ月で元の大きさに戻ります。

肝臓は人体の「化学工場」

肝臓には分かっているだけでも500以上の役割があるとされ、人体内の「総合化学工場」に例えられます。
そうした多くの機能の中でも最も重要な働きが「栄養の代謝」「毒の処理」「胆汁の産生」の三つです。

済生会肝臓共同グループのページはこちら>>

解説:岡上 武

解説:岡上 武
吹田病院
名誉院長

※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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