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2025.01.22
聴神経腫瘍とは、12種類ある脳神経のうち、聴神経に生じた脳腫瘍のことです。聴神経は、耳で聞いた情報を脳に送る蝸牛(かぎゅう)神経と身体の平衡感覚をつかさどる前庭(ぜんてい)神経を併せた総称で、聴神経腫瘍のほとんどは前庭神経から発生します。多くは耳の奥にでき、ゆっくり発育する腫瘍です。腫瘍の細胞自体は良性ですが、腫瘍によって脳が圧迫されたり、髄液の流れが滞ることで、身体にさまざまな症状が現れます。
診断は、頭部CTやMRIなどの画像検査で行ないます。小さな病変の場合はCTでは分かりにくく、MRIの方が確実です。
初期に起こる症状の多くは、難聴、耳鳴り、耳が詰まっているように感じる耳閉感(じへいかん)など蝸牛神経に由来するものです。めまいやふらつきといった、前庭神経に由来する症状が併発することもあります。聴神経腫瘍は通常ゆっくり発育しますが、人によってそのスピードは異なります。早く進行する人であれば、無症状の状態(腫瘍がまだ小さい)から腫瘍が急に大きくなることで、突然の難聴(突発性難聴)を発症することも珍しくありません。実際に、改善しない突発性難聴の約8%に聴神経腫瘍が発見されたという報告もあります。一方で、腫瘍ができていても大きさによって聴力は正常に保たれている場合もあります。
腫瘍が大きくなると、脳の中枢神経系を構成する脳幹が圧迫され、ふらつく、まっすぐ歩けないなどの歩行障害が起こります。また、腫瘍に圧迫されて髄液の流れが滞ることで、閉塞性の水頭症(脳に髄液が過剰に貯留することで生じる病気)を発症することもあります。その場合は歩行障害に加え、記憶障害や理解力の低下などの認知症症状、頻尿や失禁などの排尿障害がみられるようになります。
聴神経腫瘍の治療には主に、MRIでの経過観察・手術による腫瘍摘出・局所的にがん細胞を死滅させる放射線治療の3つの方針があります。
患者の年齢や全身状態、聴力の状態、腫瘍の大きさや病状などを考慮し、本人の希望も踏まえて検討します。腫瘍の生育は1年間で1〜2mm程度の増大が平均的といわれていますが、腫瘍の増大速度には個人差があります。腫瘍がまだ小さい場合は、MRIを使用しながら経過観察を行ないます。
一般的に、若い人で大きな腫瘍の場合は摘出手術を選択することが多く、高齢で全身麻酔のリスクがある人は放射線治療を選択することが多いです。
腫瘍が小さいと頭部CTで見つけることは難しいため、ほとんどの聴神経腫瘍はMRIで発見されます。大抵は、難聴など聴力に関する症状が生じ、耳鼻科を受診して頭部のMRI検査を受けることで診断されます。また無症状であっても、脳ドックのMRIで発見される場合もあります。
聴力の低下や耳鳴りなどの異変を感じた場合は早めに受診し、必要に応じて頭部MRI検査を受けることが重要です。症状がなく腫瘍がまだ小さい場合は、経過観察を行ないます。
聴神経腫瘍の原因がまだ解明されていないため、発病を予防する方法は特にありません。「神経線維腫症Ⅱ型」という左右の両側に聴神経腫瘍ができる病気を患っている場合のみ、原因となる特定の遺伝子異常が分かっています。
解説:後藤浩之
大阪府済生会 中津病院
脳神経外科部長
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