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2021.04.07

ベーチェット病

Behcet disease

解説:松下 正人 (泉尾病院 免疫内科部長)

ベーチェット病はこんな病気

ベーチェット病は、全身の臓器にいろいろな病変を繰り返す原因不明の炎症性疾患です。主な症状は、眼症状、口腔内の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)、さまざまな皮膚症状、外陰部潰瘍といった4つです。

1937年にトルコの皮膚科医ベーチェットが初めて報告しました。日本では、厚生労働省によって特定疾患に指定されており、2020年3月末時点で患者数は約1.5万人になります。
発症頻度には男女差はなく、発症年齢は男女ともに20~40歳に多く、30歳前後がピークになります。

ベーチェット病は北緯30度~45度の中近東から地中海沿岸、中央アジア、そして日本に至る東アジア地区に多発するため、「シルクロード病」とも呼ばれるようになりました。このことから遺伝的要因の関与が古くから知られています。白血球の血液型ともいえるヒトの組織適合抗原であるヒト白血球抗原(HLA)において、HLA-B51というタイプの比率が、健常者に比べて高くなっています。

2010年、すべての遺伝子を網羅的に相関解析するゲノムワイド関連解析(GWAS)により、さらにいくつかの疾患感受性遺伝子(病気の発症に関わる遺伝子)が発見されました。ただ、いずれも免疫反応や炎症に関係している分子であり、ベーチェット病が免疫異常に基づく炎症性疾患であることの裏付けとなっています。

しかし、ベーチェット病は遺伝的素因だけで説明することはできず、さまざまな環境要因が関与することが報告されています(口腔内に存在する微生物であるStreptococcus sanguinis=口腔内連鎖球菌などはその一例)。最近発見された疾患感受性遺伝子には、微生物に対する生体の初期反応に働くものが多く含まれており、ベーチェット病の遺伝的素因を持った人に、これらの微生物が侵入すると異常な免疫反応が引き起こされてベーチェット病の発症に至る、という考え方が有力です。

ベーチェット病の症状

【主症状(1~4)】
1. 眼症状:最も重要な症状の一つであり、ぶどう膜炎(眼の虹彩、毛様体、脈絡膜に起きる炎症)がみられます。ベーチェット病のぶどう膜炎は「眼炎症発作」といわれる通り、急性に発症して比較的速やかに消えてなくなるという特徴があり、発作を起こしていないときには炎症所見がほとんどみられないことが多いです。
水晶体より前の部分にあたる前眼部の病変としては、虹彩毛様体炎(虹彩や毛様体が炎症で腫れたり充血したりする病気)が起こり、眼痛、充血、羞明(しゅうめい=強い光で不快感や眼の痛みなどを生じること)、瞳孔不整がみられます。水晶体の裏面から網膜までの後眼部の病変としては網膜脈絡膜炎(網膜と脈絡膜で起きる炎症)がみられ、黄斑部に病変が出現すると急速な視力低下につながります。他のぶどう膜炎でみられる白色斑より速やかに消えてなくなるのが特徴です。しかし、後眼部病変を繰り返すことは恒久的な視力障害や視野障害につながります。

2. 口腔内の再発性アフタ性潰瘍:口腔内アフタ性潰瘍は頻度が高く、初期症状としてみられる場合が多いです。口唇、頬粘膜、舌、歯肉、口蓋粘膜に、円形で境界が鮮明な潰瘍ができます。

3. 皮膚症状:結節性紅斑(皮膚の下に赤や紫色の膨らみが生じる皮下脂肪組織の炎症)、毛のう炎様皮疹(ざ層様皮疹)、血栓性静脈炎などがみられます。

4. 外陰部潰瘍:口腔内アフタ性潰瘍とともにベーチェット病に特徴的です。男性では陰のう、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣粘膜に有痛性の潰瘍がみられます。

【副症状(1~5)】
1. 関節炎:膝、足首、肘、肩などの大きな関節にみられ、繰り返し認められるという特徴があります。

2. 副睾丸炎:男性患者さんの約5%にみられます。

3. 消化器病変:主に回盲部(小腸と大腸の境界部)に深い潰瘍が生じ、腹痛下痢、下血などを起こします(腸管型ベーチェット病)。

4. 血管病変:主に大きな血管を侵し、頻度は低いものの、その後重症化するかどうかを左右する重要な臓器病変です(血管型ベーチェット病)。

5. 神経病変(中枢神経)髄膜炎、脳幹脳炎として急速に発症する「急性型」と、急性型の発作ののちに数年の間をおいて認知症・精神症状や、構語障害・体幹失調が現れ徐々に進行する「慢性型」とに分けられます(神経型ベーチェット病)。

ベーチェット病の検査・診断

ベーチェット病には診断のための決定的な検査法がありません。診断の参考となる検査所見には以下のものがあります。
1. 皮膚の針反応:注射針(20~22G)の先端を前腕に刺した刺入部に紅斑、膿瘍を形成。
2. 炎症反応:赤沈値(赤血球が試薬内を沈んでいく速度)が速い、CRP (C反応性タンパク:炎症があると血液中で上昇)の陽性化、末梢血白血球数の増加など。
3. HLA-B51陽性(ベーチェット病患者さんの約60%が陽性)、HLA-A26陽性(ベーチェット病患者さんの約30%が陽性)
4. 病理所見:急性期の結節性紅斑様皮疹は中隔性脂肪組織炎が原因で、壊死性血管炎を伴うこともあります。
5. 神経型の診断では髄液検査における細胞増多、IL-6(インターロイキン6)の増加、MRIの画像所見(脳幹の萎縮など)を参考とします。

診断は厚生労働省ベーチェット病診断基準(2016年小改訂)によって行ないます。
1. 完全型:経過中に4主症状が出現したもの。
2. 不全型
 (a) 経過中に3主症状、あるいは2主症状と2副症状が出現したもの。
 (b) 経過中に定型的眼症状とその他の1主症状、あるいは2副症状が出現したもの。
3. 疑い:主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、および定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの。
4. 特殊病変
 (a) 腸管型ベーチェット病
 (b) 血管型ベーチェット病
 (c) 神経型ベーチェット病

ベーチェット病の治療法

ベーチェット病にはいろいろな症状があり、重症度もさまざまです。すべての患者さんに対して同じ治療法があるわけではありません。薬物治療ではステロイド、コルヒチン、免疫抑制薬や生物学的製剤などが使用されますが、個々の患者さんの病状や重症度に応じて治療方針を立てる必要があります。
また、病変部位が多岐にわたる例もあるので、各診療科が綿密に連携をとり診療に当たることが重要です。

ベーチェット病は、遺伝的要因が関与していることは間違いないですが、「遺伝病」ではありません。家族内発症の頻度もさほど高くありません。そのため、親族の発症によって血縁者の診断や発症の予測はできませんし、結婚に際しても大きな問題にすべきではありません。

まずは、症状の特徴などから病気を疑い、医療機関を受診することが肝要です。

初期症状として頻度の高い口腔内の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)、初期症状としても特異度の高い(陽性であれば病気である可能性が高い)外陰部潰瘍に注意し、皮膚症状についても詳しく診断することが必要となります。
また、眼症状を早期にチェックすることは、その後の視力低下などの経過に大きく関わるため非常に重要です。

病気の原因が分かっていないため、発症を予防する方法はありません。
発作や悪化予防のためには、全身の休養と保温に気をつけ、ストレスの軽減に努めることが重要です。また、口腔内の衛生に留意し、虫歯歯周病の治療も大切です。喫煙は病気を悪化させる要因となるのでやめましょう。

解説:松下 正人

解説:松下 正人
泉尾病院
免疫内科部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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