社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2022.05.18

ダウン症候群

Down syndrome

解説:原 泉 (伊豆医療福祉センター 小児科)

ダウン症候群はこんな病気

ダウン症候群のある人は、染色体という身体の設計図となる部分が増えたことで一般とは異なる症状が現れます。
人間の染色体は父親と母親からそれぞれ23本ずつ受け取り、合計46本(23対)となっています。そのうち44本(22対)が「常染色体」、残り2本(1対)が「性染色体」で構成されています。22対の常染色体は長さによって1~22番に分類されます。ダウン症候群はこのうち21番目の常染色体が2本ではなく3本になった状態です。

ダウン症候群の症状

症状は主に次の三つです。

1. 全身の筋肉や関節が柔らかいです。そのため歩行開始の時期が遅くなったり、整形外科的な合併症に気をつける必要があります。
2. 発達がゆっくりでマイペースに進みます。
3. 心疾患や甲状腺疾患などの合併症に注意する必要があります。

ダウン症候群の人は共感力が高くて愛情深く、また視覚記憶や長期記憶が一般の人よりも優れています。そのため、学習については「ビジュアルラーナー(visual learner)」、つまり「見て学ぶ人」といわれます。目で見て情報を理解する人が多く、耳からだけの情報よりも視覚的な補助があった方が理解しやすいです。

一方で、聴力に問題がなくても音が不明瞭に聞こえていることがあるので、話しかけはゆっくりはっきり短く、口を見せながら行なった方が理解しやすくなります。文字学習などを積極的に行なうと本人の話し方がはっきりし、語彙(ごい=知っている言葉や使える言葉)が増えやすいという特性もあります。

ダウン症候群の検査・診断

赤ちゃんから採血して染色体検査を行ないます。21番目の常染色体が3本あると診断が確定します。
なお、出生前の検査・診断については「早期発見のポイント」の項で説明しています。

ダウン症候群の治療法

ダウン症候群に伴う合併症は、成長の時期により注意する病気が異なります。いつ頃、どのような病気が起こりやすいかを知った上で必要な健康診断を受けましょう。
発達がゆっくりであることに関しては、運動面は理学療法、身辺自立(身の回りのことを自分でできるようになること)は作業療法、言葉は言語療法などを通じて評価とアドバイスをもらうことが大切です。
運動面では、ダウン症候群を持つ赤ちゃんのために考案された「ダウン症児の赤ちゃん体操」も有効です。
離乳食の開始時期は一般の赤ちゃんと同じでよいですが、摂食指導を受けながら進めていきましょう。

ダウン症候群に伴う合併症の予防については、「予防の基礎知識」の項で詳しく説明しています。

※兵庫県立尼崎総合医療センターの「ダウン症児のための親子教室」において、藤田弘子医師を中心に考案された、正常な乳児発達過程を踏ませるための運動療法。

妊婦健診時の胎児超音波検査などで、羊水の量の異常や赤ちゃんの心疾患が分かり、出産前に医師からダウン症候群の可能性を伝えられることがあります。
保険診療ではない検査になりますが、母体血清マーカー検査や新型出生前検査(NIPT)もあり、妊婦さんの血液検査で赤ちゃんにダウン症候群の可能性があるかが分かります。

確定診断は絨毛検査や羊水検査で行ないますが、すべての検査が100%の精度を保証するものではありません。検査については母体血清マーカーやNIPTなどの出生前診断を受けるか受けないかも含めて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる十分な情報提供やカウンセリングを受け、家族でよく話し合った上で決めることが最も重要です。

 非確定的検査 ・ 超音波検査(エコー検査)
・ 母体血清マーカー検査
 (トリプルマーカー、クアトロテスト)
・ 新型出生前検査(NIPT) 
 確定的検査

・ 絨毛検査(絨毛染色体検査)
・ 羊水検査(羊水染色体検査)

ダウン症候群の合併症は、いずれも定期健診をきちんと受けていれば心配はいりません。

新生児期は、心疾患、甲状腺疾患、十二指腸閉鎖などの消化管疾患に注意が必要です。心疾患は適切な時期に手術を受けることで日常生活を問題なく送れる人がほとんどです。甲状腺疾患は薬物療法を行なえば問題ありません。

眼については、乳児期に先天性白内障などがないか調べることが大切です。逆さまつげ(睫毛内反症)や斜視も多く、必要に応じて手術を行ない治療します。成長してから遠視や乱視になり眼鏡が必要になる人は多く、成人後に白内障が発症することもあるので、定期的な眼科受診が必要です。
ダウン症候群の人の耳の特性として、聴覚神経の成熟がゆっくりであることが挙げられます。聞こえの状態を調べる新生児聴覚スクリーニング(聴覚検査)で再検査が必要になっても、成長に伴って聴力が高まることも多いので経過観察を続けます。また、耳の穴が狭いことが多いため、半年ごとに耳鼻科で耳掃除をしてもらい、中耳炎が起こっていないかを診てもらいましょう。

関節がゆるいことにも注意が必要です。3歳ごろに首のX線検査を行ない、頸椎の亜脱臼がないかを確認してもらいましょう。でんぐり返しなど、首を強く前に倒す運動は控えます。
外反扁平足がある場合は、痛みの予防や歩くときの姿勢の改善のためにインソールを使用した方がよいでしょう。歩行開始後、歩き方に左右差があったり痛みを訴えたりする場合は早めに整形外科を受診し、股関節、膝関節、足関節を診てもらいましょう。
運動機能を高めるには、握力を鍛えたり体幹トレーニングを行なったりすることが効果的です。

10歳をすぎたら年1回は血液検査を受けましょう。思春期に甲状腺機能が乱れる場合があるためです。また、やせ型の体型でも尿酸値が高くなる場合があるほか、糖尿病脂質異常症などの生活習慣病にも注意が必要になります。

精神面では、思春期以降に適応障害により行動が緩慢になったり引きこもり状態になったりする場合があります。これらを予防するには、年齢相応の社会性を身につけられるように、小さい頃から地域の中でさまざまな人と交流しながら活動すること(統合教育)を心掛け、ポジティブな感情だけでなくネガティブな感情も言語化できるようにしたり、本人自身が意思決定する機会をできるだけ作ったりするなどの支援が大切です。

解説:原 泉

解説:原 泉
伊豆医療福祉センター
小児科


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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