社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2021.08.25

血友病

hemophilia

解説:竹内 隆浩 (静岡済生会総合病院 血液内科部長)

血友病はこんな病気

血友病は、出血を止める要素のうち凝固因子と呼ばれる物質の働きが遺伝的に十分ではないために、出血が止まりにくくなる病気です。
出血を止めるには、血管・血小板・凝固因子という3つの要素が必要です。凝固因子は血小板が出血を止める際に、血小板の隙間を埋める糊のような役割を果たします。そのため血小板の数が正常であっても、凝固因子が不足していると血が止まりにくくなります。

血友病は、X染色体の1本に異常遺伝子があるX連鎖劣性という遺伝形式による病気で、多くは男性に発症します。血友病の7割は、原因となる異常遺伝子を持つ母親(保因者)から男性に受け継がれて発症し、残りの3割は遺伝子の突然変異によって発症します。

凝固因子は第I~XIII(1~13)の12種類(第VI因子は欠番)存在しており、血友病は不足している凝固因子の種類によって、「血友病A」と「血友病B」の代表的な2つのタイプに分類されます。

血友病A: 第VIII(8)因子が不足している、または働きが弱い
血友病B: 第IX(9)因子が不足している、または働きが弱い

日本の血友病の患者数は、血友病Aが約5000人、血友病Bが約1000人です。

血友病の症状

ぶつけてもいないのにあざができたり、関節に痛みが走り、その後拘縮(こうしゅく=関節が動かしにくくなった状態)を起こして関節の動きが悪くなったりすることがあります。
また、手術や事故、抜歯などの出血時に血がなかなか止まらないといった症状があります。
初発の出血症状として最も多いのが皮下出血で、乳児期後半からみられます。点状の出血はみられず、大小さまざまなあざができます。
血友病Aと血友病Bで、症状に大きな違いはみられません。

血友病の検査・診断

血液凝固系の検査を行ないます。具体的には「プロトロンビン時間(PT)」と「活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)」の2つの検査があり、ともに凝固因子が血液を固めて出血を止める時間を測定します。PTが正常でAPTTが通常よりも長くなると、血友病を疑います。その場合、凝固因子がどのように働いているかを調べるために、第VIII因子と第IX因子の凝固因子活性検査を行ないます。これによって血友病Aか血友病Bかを判断します。
また、凝固因子の活性値(働きを示す値)が1%以下を重症型、5%以下を中等症、5%以上ある人は軽症に分類されます(血友病全体の50~60%が重症型で、中等症、軽症はどちらも20%前後)。

血友病の治療法

基本的には不足している凝固因子を製剤の注射で補う補充療法を行ないます。
血友病Aでは第VIII因子製剤、血友病B では第IX因子製剤を用います。製剤にはヒトの血漿(けっしょう=血液から血球をのぞいた液体成分の総称)から作られたものと遺伝子組み換えによって作られたものがあります。

補充療法は大きく以下の3種類に分かれます。

■出血時補充療法:急に出血したときの止血治療
■予備的補充療法:出張や旅行の予定がある場合に当日の朝などに事前に行なう治療
■定期補充療法:長期間にわたり定期的に製剤を投与して出血を予防する治療

定期補充療法の場合、注射治療を行なう頻度は、従来からの標準型血友病製剤では週3回であるのに対して、2014年に登場した半減期延長型血友病製剤では週1~2回と少ないのが特徴です。

また、製剤の凝固因子に対して抗体(インヒビター)が現れることがあります。出現率は血友病Aで約30%、血友病Bで約5%です。インヒビターが現れると、凝固因子製剤だけでは止血管理が困難になるケースが多いです。その場合は、バイパス止血製剤(第VIII因子や第IX因子ではなく別の凝固因子を使って出血を止める治療薬)を使用します。

治療における助成制度
血友病の治療製剤はいずれも高額ですが、日本では公的医療保険に加えて特定疾病療養、小児慢性特定疾患治療研究事業(20歳未満)、先天性血液凝固因子障害等治療研究事業(20歳以上)などの医療費助成制度を使うことで、自己負担なく治療を受けることができます。

あざや関節痛が早期発見のポイントにはなりますが、他の病気でもみられるため鑑別は難しいです。
医学解説の「血友病の症状」で記しているように、最初の症状として乳児期後半から皮下出血(大小さまざまなあざ)がみられることが多いです。そうした症状がある場合、かかりつけ医に相談しましょう。

残念ながら、血友病の発症を予防する方法はありません。
出血症状が出たら、出血時補充療法によってできるだけ早く凝固因子製剤の補充を行なうことが重要です。
定期的に製剤を投与して出血を予防する定期補充療法には、関節の痛みや拘縮を起こして関節の動きが悪くなる関節症を予防する効果があります。

解説:竹内 隆浩

解説:竹内 隆浩
静岡済生会総合病院
血液内科部長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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