社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2021.02.24

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

intraductal papillary mucinous neoplasm

解説:中村 慶春 (神栖済生会病院 院長)

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)はこんな病気

膵臓(すいぞう)には、内部に液体のたまった袋状の腫瘍(のう胞)が何種類も発生します。それらを総称して膵のう胞性腫瘍と呼びますが、その中で最も発生する頻度が高く代表的なものが膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう=IPMN)です。IPMNは、男女比2:1で高齢の男性に発生することが多く、他の膵のう胞性腫瘍と比べ、がん化(膵臓がんへの移行)する頻度が高いため注意が必要です。

IPMNは、主膵管型、分枝膵管型、混合型の3つに分類されます。膵管は、膵臓内で作られる消化酵素(膵液)の通り道です。主膵管型は、膵臓の真ん中を横に通り木の幹に相当する部分の主膵管が、太く拡張する病態を指します。分枝膵管型は、あたかも木の枝のように主膵管に入り込むたくさんの細かい分枝膵管が拡張していく病態です。混合型は、上記の主膵管型と分枝膵管型の両方が合わさったものを指します。分枝膵管型が最も多く、IPMN全体の7〜8割程度を占めます。分枝膵管型と比べて、主膵管が拡張する主膵管型と混合型は、がん化する頻度が高いことが分かっています。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の症状

IPMNののう胞内の液体はネバネバした粘液ですので、それが膵管に詰まると急性すい炎を発症し、上腹部や背中の痛み発熱吐き気、嘔吐などが現れます。ただし、IPMNは通常、無症状のことが多く、他の疾患の精査の際に行なわれるCT、MRIなどの画像検査で偶然に見つかることがよくあります。IPMNが悪性化(がん化)すると、膵臓がんと同様に黄疸(おうだん=眼球結膜や皮膚が黄色く染まること)や褐色尿、十二指腸閉塞、腫瘤触知(しゅりゅうしょくち=こぶのようなものが触って感知できること)などの症状が現れます。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の検査・診断

IPMNの診断に有用な血液検査はありません。健診などで行なう腹部超音波検査で主膵管の拡張が発見され、診断につながることがあります。
精密検査の画像診断としては、CT検査、MRI検査、超音波内視鏡検査(EUS)が用いられます。IPMNの腫瘍内には粘液が充満しているため、MRI検査がその描出能力に長けています。EUSは拡張した主膵管や分子膵管内の微小な病変(結節と呼びます)を描出することができ、がん化しているのかどうかの診断の一助となります。
内視鏡的逆行性膵管造影検査(ERP)は、直接的に主膵管と分枝膵管を造影し、膵管内の結節を描出できます。加えてERPでは、膵管内の膵液や粘液を採取して細胞診(細胞の一部を採取して検査すること)を行なうことで、がん化しているかどうかの診断も可能となります。体内の細胞の働きを断層画像として捉えるPET検査は、腫瘍の悪性度判定の一助となり、がん化していた場合の遠隔転移の有無の診断にも有用です。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の治療法

症状がなく、悪性化が疑われないケースでは経過を観察します。治療が必要と判断された場合には外科的切除が基本です。既にがんが進行している場合には、通常の膵臓がんと同様に膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術、膵全摘術が適応されます。一方、進行がんではないものの、今後、それに移行していく可能性が高い状態と診断される場合には、上記の手術だけでなく、病変部位の部分切除(膵部分切除術、膵中央切除術などの縮小手術)も適応することができます。最近では、膵切除術においても身体をあまり傷つけず負担が少ない腹腔鏡下手術を行なう機会が増えています。

IPMNは、生活習慣や家族の既往歴などにおけるリスク要因が明らかではなく、また無症状の場合が多いため、IPMNそのものの早期発見は難しいと考えられます。健診、人間ドッグでの定期的な画像診断チェックをお勧めします。
IPMNの悪性化(がん化)の有効な指標として、のう胞壁の結節(拡張した主膵管や分子膵管内の微小な病変)の存在や、主膵管の拡張が挙げられます。また、経過観察期間中ののう胞の増大率も、悪性かどうかを判断する上での指標となります。適切な治療のタイミングを見極めるためには、専門医による診療が重要となります。

現時点では適切な予防法はありません。そのため画像チェックを受けていただくことをお勧めします。

解説:中村 慶春

解説:中村 慶春
神栖済生会病院
院長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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