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2024.12.18
トキソプラズマ症とは、トキソプラズマ原虫という寄生虫が体内に侵入することで発症する感染症です。トキソプラズマ原虫は主にネコ科の動物を終宿主(しゅうしゅくしゅ)とし、寄生して体内で有性生殖を行なっています。主な感染経路は、トキソプラズマ原虫の卵を含んだネコの糞や、糞によって汚染された土、加熱処理の不十分な肉(馬刺、牛刺、鳥刺、レバ刺、鹿刺、レアステーキなど)です。人獣共通感染症のため動物からヒトへ、ヒトから動物へと伝播(でんぱ)しますが、ヒトからヒトへ感染することはありません。
多くの人は、トキソプラズマ症に感染しても症状が出ない不顕性感染(ふけんせいかんせん)で済みますが、発症すると体中に痛みや発熱が生じるほか、免疫が弱っている人だと重症化の恐れがあります。
妊娠中に初めてトキソプラズマ症に感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、母子感染の先天性トキソプラズマ症を発症する危険性があります。「妊婦がネコを飼うと危険」などと聞いたことがあるかもしれませんが、それはこのトキソプラズマ症の危険性があるためです。
胎児への感染率は、妊娠初期では数~25%、妊娠末期では60~70%と妊娠週数に伴って上昇します。一方、感染した場合の胎児が後に重症化する確率は、妊娠初期の感染だと60~70%、妊娠末期の感染だと約10%となっており、妊娠初期の感染ほど重篤化する恐れがあることが報告されています。
妊娠以前に不顕性感染を経験していれば、母子感染によって胎児が先天性トキソプラズマ症になるリスクはほぼないといわれています。
健康な子どもや大人であれば、後天的にトキソプラズマに感染しても無症状の場合が多いです。症状が現れた際には、軽いインフルエンザのような痛みや発熱が生じます。免疫障害があるなどで重症化してしまった場合には、感染が脳に及び、視力障害を起こしたり、最悪死亡に至るケースもあります。
妊娠中に初めてトキソプラズマ症に感染した場合は、数~20%ほどの確率で胎児に典型的な先天性トキソプラズマ症の症状(顕性感染: 胎内死亡、流産、網脈絡膜炎、小眼球症、水頭症、小頭症、脳内石灰化像、肝脾腫など)が発症します。また、生まれたときに無症状であっても、成人になるまでに網脈絡膜炎や神経症状(てんかん様発作、けいれんなど)が現れることもあるため、胎内感染の実態は不明であるのが実情です。
主に血清検査と遺伝子検査を行ない、原因となるトキソプラズマ原虫の検出や、感染による遺伝子への影響がないかを調べて診断します。
無症状の場合は、特に治療を行ないませんが、症状が生じた場合は先天性、後天性に関わらず薬剤投与で治療を行ないます。妊娠している人が感染した場合は、胎児への影響を軽くするために抗生物質を服用します。
妊娠を希望している人や妊娠している方は、トキソプラズマ抗体検査を受けることでトキソプラズマ原虫の抗体を有しているかどうかを調べることができます。陰性の場合はこれまでにトキソプラズマ症の抗体を有していないため、しっかりと感染対策に取り組みましょう。陽性の場合はさらに詳しい検査を行なうことで、感染時期を推定することができます。妊娠前に感染していた場合は問題ありませんが、妊娠中の感染が疑われる場合は胎児に感染していないかを調べた上で、必要に応じて治療を行ないましょう。
トキソプラズマ抗体検査は標準的な妊婦検診の検査項目には含まれませんが、希望すれば多くの医療機関で受けられます。猫を飼っているなど、気になる場合は主治医の先生に相談しましょう。ブライダルチェックにトキソプラズマ抗体検査を含む医療機関もあります。
予防策として、以下のことに気を付けましょう。
・ 食用肉はよく火を通して調理する
・果物や野菜は食べる前によく洗う
・食用肉や野菜などに触れた後は温水でよく手を洗う
・ガーデニングや畑仕事など土を触る場面では手袋を着用する
・ペットなど動物の糞尿の処理するときは手袋を着用する
・(妊婦の場合)妊娠初期の時点で抗体検査を受ける
特に妊婦の方は胎児に影響を及ぼす可能性がある病気なので、妊娠中の方は遠慮なく産婦人科医に相談してください。
解説:岡田 理
豊浦病院
産婦人科科長
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