社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2022.04.20

ターナー症候群

Turner syndrome

解説:田中 弘之 (岡山済生会総合病院 小児科 診療顧問)

ターナー症候群はこんな病気

ヒトの染色体は46本で、男女ともに44本(22対)の「常染色体」と、男性ではX染色体とY染色体1本ずつ、女性ではX染色体2本の「性染色体」で構成されています。ターナー症候群は女性のみに起こる病気で、2本のX染色体のうち1本の全体または一部が欠失し、その部分にある遺伝子が不足することによって発症します。

ターナー症候群の症状

X染色体には、身長を決める遺伝子やリンパ管の形成に必要な遺伝子、卵巣機能に重要な遺伝子があるといわれています。それらが欠けることによって、低身長、翼状頸(よくじょうけい=首の側面の皮膚が肩まで翼を張ったようになる)、外反肘(がいはんちゅう=肘から先が真っすぐではなく少し外に向いている)、心室中隔欠損症のような心疾患、腎奇形、性腺機能低下症(正常な二次性徴が現れない)などの症状が起こります。ただし、人によって程度は異なり、全く症状のない人から上記のすべての症状を持つ人までいます。
知的発育には異常がないことから、この病気を“疾患”ではなく“体質”ととらえ、「ターナー女性」と呼ぶべきという考え方もあります。

ターナー症候群の検査・診断

ターナー症候群の診断には血液細胞の染色体検査を行ないます。異常な染色体を持つ細胞と正常な細胞が混在する状態をモザイクと呼びますが、その状態を正確に評価するために20個以上の細胞の染色体分析を行ないます。X染色体の1本の全体または一部が欠失していることが確認されると、診断が確定します。
病気自体の診断とともに、上記の症状の評価も必要であり、低身長では成長ホルモン分泌刺激試験、心疾患や腎奇形では超音波検査、性腺機能低下症では女性ホルモン(性腺刺激ホルモン)の検査などを行ないます。

ターナー症候群の治療法

染色体異常を治療する方法はありませんので、上記の症状に対する治療を行ないます。
幼児期以降、この病気が発見されるきっかけとなるのは低身長症であることから、小児期に成長ホルモンの注射が行なわれ、成長ホルモンが分泌されず低身長になっている場合(成長ホルモン分泌不全性低身長症)の2倍量を用います。
身長SDスコア(同性・同年齢の標準からどの程度離れているかを表すスコア)が-2SD以下の場合には、小児慢性特定疾病として公費助成による治療を受けることができます。詳しくは、小児慢性特定疾病情報センターのホームページで確認してください。
この病気の約半数では自然に月経が起きない性腺機能低下症の状態になります。思春期年齢になれば、二次性徴発現の促進のために女性ホルモンを少量から補充していくことを考えます。
そのほかの症状に対しても必要に応じて適切な治療を行ないます。

新生児期に手や足の甲に浮腫(むくみ)があって発見されたり、心雑音(心臓の雑音)の精査で発見されたりすることもありますが、最も多いのは低身長の検査による発見です。
3歳児健診や保育園・幼稚園の健診で低身長を指摘された場合は、ターナー症候群の可能性も考えて早めに専門医を受診しましょう。
女性ホルモンの増加によって身長の増加は停止の方向に進みます。治療の開始時期が遅れると身長が十分伸びないうちに思春期年齢に到達してしまい、二次性徴発現の促進のための女性ホルモンの補充開始も、著しく遅れてしまうことになります。早期発見とともに長期的な治療計画を立てることが大切です。

流産胎児の染色体分析で最も頻度の高かった染色体異常は、ターナー症候群の染色体異常であったとの報告があります。このように発生頻度の高い染色体異常を予防することはできません。
予防すべきは、ターナー症候群であることによって生じる低身長、二次性徴の欠落などの不利益です。小児期になるべく標準に近い成長が得られるように、女子の標準的な成長に関する知識、特に思春期の成長についての基礎知識を持つようにしましょう。

女子の思春期の始まりは9歳から10歳です。乳輪部分の小さな隆起がみられるようになると、身長の増加速度が急に上がってきます。これを身長のスパートと呼び、このスパートが始まると3年間で身長が平均20cm伸びます。標準的な初経年齢は12歳半で、20代の日本人女性の平均身長は157.5cmです(2019年調査)。つまり、身長のスパートが始まるときに身長が135cmに達していれば、標準的な成人身長には到達できることになります。このような観点から治療の開始時期を考えることが大切です。

解説:田中 弘之

解説:田中 弘之
岡山済生会総合病院
小児科 診療顧問


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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