2024.02.02
Vol.14
知っておきたい「認知症」治療薬の基本と最新事情
記憶力が低下したり、仕事や家事ができなくなったりと日々の生活に支障が起こる脳の病気「認知症」。最も多いアルツハイマー型認知症にはこれまで、主に4種類の薬が使用されてきましたが、2023年9月に新しい薬「レカネマブ」が正式に承認されました。それぞれの薬のはたらきや仕組みを解説します。
済生会小樽病院 薬剤室
又村 健太
認知症とは?
認知症は、さまざまな原因によって記憶力が悪くなったり、いつもしていることができなくなるなど、日々の暮らしに支障が生じる脳の病気です。主に、アルツハイマー型、レビー小体型、血管性、前頭側頭型の4種類に分けられます。日本では、認知症になる人のうち60%以上がアルツハイマー型で、男女比は1:2と女性に多いといわれています。
症状としては、物事の判断ができない、記憶力が悪くなる、言葉が分からない、仕事や家事ができなくなる、時間や場所が分からなくなるなどの「中核症状」と、興奮、暴力行為、一人で歩き回る(徘徊)、うつ状態、意欲がなくなる、妄想、怒りっぽくなるなどの「行動・心理症状(BPSD)」があります。
認知症は誰もが発症する可能性のある脳の病気ですが、高齢者がかかる病気と思われているのは、年齢を重ねるごとに脳の中に特殊なタンパク質(アミロイドベータやタウタンパク質など)が増えてたまり、それが脳へダメージを与えることによって発症するためだと考えられます。
現在の認知症治療薬
認知症で最も多いアルツハイマー型認知症の治療には、アセチルコリンという神経伝達物質 の減少を防ぐ作用のある「ドネペジル錠」「ガランタミン錠」「リバスチグミン貼付剤」のほか、グルタミン酸のはたらきをおさえる作用のある「メマンチン錠」の4種類の薬が使われています。
ドネペジル錠、ガランタミン錠、リバスチグミン貼付剤は「やる気を高めるタイプ」、メマンチン錠は「気持ちを落ち着かせるタイプ」といわれており、主に中核症状の改善が期待されます。
あくまで症状を遅らせたり、和らげたりすることが目的であり、認知症を治すことはできません。しかし、症状の軽いうちから薬を飲み始めれば、その状態を保ち続ける効果が期待されます。
ほかにも行動・心理症状(BPSD)に対して使われる薬があります。例えば、眠れない人に睡眠薬、気持ちが落ち込んでいる人に抗うつ薬、不安の強い人に抗不安薬、暴言暴力がある人に漢方薬など。ときには興奮をおさえる効果を期待して抗てんかん薬が使われることもあります。
加えて、運動療法、音楽療法、心理療法、芸術療法、アロマセラピー、園芸療法、ペットセラピーなど薬を使わない治療も並行して行なわれることが多いです。
新しい薬への期待
2023年9月に、これまでの薬とは違うはたらきをする「レカネマブ」が承認され、日本でも使用できるようになりました。
レカネマブはアルツハイマー病の原因の一つとされるアミロイドベータ(アミロイドβ)の小さなかたまりを見つけると、それらにくっつき、脳の中から取り除くことで神経細胞が壊れるのを防ぐ作用があります。
レカネマブの効果が期待できるのは、アルツハイマー型認知症の軽度認知障害(MCI) 、または軽度認知症患者さんです。薬を始める前には検査を必ず行ない、治療は2週間に1回、1時間程度かけて点滴注射をします。
効果としては、投与しなかった場合に比べて7カ月半ほど症状の悪化がおさえられたというデータが示されています。副作用は、脳がむくんでしまう脳浮腫や、脳に小さな出血が起こる脳微小出血が報告されているため、精度の高いMRIによる定期的な検査が必要です。
レカネマブも、認知症を治す薬ではなく、病気の進みを遅らせる効果が期待されています。MCIまたは軽度認知症患者さんを対象とすることで、症状が軽い状態を長い期間保てるようになると考えられています。
認知症の進行をおさえるために
今回は認知症の中でも最も多いアルツハイマー型認知症の治療薬について説明しました。認知症を完全に治すのではなく進行を遅らせる効果のため、早い段階から薬を飲むことが大切になります。年齢にかかわらず物事の判断ができない、記憶力が悪くなる、言葉が分からない、仕事や家事ができなくなる、時間や場所が分からなくなるなどの症状に気がついたら、病院(神経内科、精神科、心療内科など)を受診し、相談しましょう。