社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

薬剤師が教える薬のキホン

2024.08.04

Vol.17

知っていますか? 実は危険なお酒と薬の飲み合わせ

「お酒は百薬の長」と言われ、適度な飲酒は食欲を増し、気分を良くするものです。一方で飲みすぎは生活習慣病や肝臓の機能低下などのリスクを高め、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、薬によってはお酒と飲み合わせが悪く、副作用や治療の妨げの原因になることもあります。今回は飲酒が薬に及ぼす影響について解説します。

なぜ、お酒と薬は一緒に飲んではいけない?

一般的に、お酒の薬への影響は、
① 身体への作用が似ていることから起こるもの
② 代謝される過程で起こるもの
に大きく分けられます。

①については、お酒と睡眠薬、抗不安薬、抗アレルギー薬は、どちらも神経を鎮める作用があるため、一緒に飲むと薬の効果が強く出すぎてしまうといったことが挙げられます。本コラムvol.08「薬と食品、避けてほしい組み合わせとは?」で詳しく触れていますので、今回の記事では、②代謝される過程で起こる影響について、ご紹介していきます。

代謝とは?

身体の中で薬や食事由来の物質(糖やアルコールなど)を変化させるさまざまな化学反応のことを言います。
今回は、薬が代謝される過程での影響として解熱鎮痛薬を、食事由来の物質が代謝される過程での影響として糖尿病治療薬とピロリ除菌治療薬を取り上げます。

お酒と解熱鎮痛薬の飲み合わせに注意

普段からお酒をたくさん飲む人の場合、アルコールを代謝する酵素が増え、分解が早くなります。それに伴い薬の代謝も増えるため、薬の効きが悪くなったり、代謝物が身体に悪影響を及ぼしたりする可能性があります。

代謝物が身体に悪影響を与える例として、アセトアミノフェン(商品名:カロナールなど)があります。アセトアミノフェンは市販の解熱鎮痛薬にも含まれ、子どもから高齢者まで広く使われています。しかし、毎日たくさんのお酒を飲む人が、長期にわたって、または、多量にアセトアミノフェンを服用した場合、肝臓に毒性を持つ代謝物(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)が増加して肝臓に悪影響を及ぼす可能性があり、注意が必要です。

お酒と糖尿病治療薬が引き起こす「乳酸アシドーシス」

糖尿病治療薬にはさまざまな種類があり、お酒との飲み合わせによる影響もそれぞれ異なります。悪い影響がある例として「乳酸アシドーシス」があります。メトホルミン(商品名:メトグルコなど)を服用中、多量のお酒を飲むことによって起こることがあります。
メトホルミンは、肝臓において乳酸から糖をつくる作用を抑えます。そのため肝臓に乳酸がたまり、食欲不振、吐き気、腹痛、下痢、倦怠感などを引き起こします。けいれん、昏睡状態など重篤な症状になることもあり、服用中は過度の飲酒は禁止されています。

ピロリ除菌の服薬中も飲酒は控えて

ピロリ菌は、胃がんや胃潰瘍など、胃の病気の原因にもなる胃の粘膜に生息する細菌です。
ピロリ菌の除菌には、3種類の薬を1週間服用しますが、除菌に成功しなかった場合は、薬を変更して2回目の除菌(2次除菌)を行なうことがあります。この際に通常用いられるメトロニダゾール(商品名:フラジールなど)が、お酒との飲み合わせに注意が必要です。お酒は肝臓で分解されると、悪酔いの原因と言われるアセトアルデヒドが発生します。通常、アセトアルデヒドは肝臓でさらに分解され無害化されますが、メトロニダゾールはこの分解を抑えることが知られています。そのため、血液中のアセトアルデヒドが増え、ほてりや頭痛、動悸、吐き気などを引き起こすことがあります。メトロニダゾールを用いたピロリ除菌中は飲酒を控えましょう。

2024年2月、飲酒のリスクに関する知識を広める目的で、厚生労働省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました。このガイドラインでは、薬との飲み合わせ以外にも、飲酒が身体にどのように作用するかについても触れられています。
生活のさまざまなシーンで登場するお酒。身近な存在であるからこそ、飲み合わせによって身体に悪い影響を及ぼす危険性があることを知っておくと安心です。服薬中はあらかじめ飲酒の可否や飲酒量などについて、必ず主治医の指示を仰ぐようにしましょう。万が一、服薬中にお酒を飲んでしまった場合は、医師または薬剤師に相談してください。

Vol.16 身体や心に害を及ぼす「薬物乱用」とは Vol.18 もう一度おさらいしておきたい! 目薬の正しい使い方

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