田原 当院の特徴としては、消化器内科でいいますと炎症性腸疾患の治験が多いことが挙げられます。あとは肝臓がんを含めた肝疾患のほか、神経障害性の疼痛の治験も行います。治験に参加するときは、済生会本部の共同治験事務局と連携しながら進めています。
当院の治験の強みとしてはまず、さまざまな診療科で経験があること。そして治験事務局を設置し、事務局専用の部屋を設けていることが挙げられるでしょう。現在、専任スタッフが1人いますが、治験を行う上でかなりやりやすくなります。治験は厳格なプロトコルを厳守して行う必要がありますが、治験に参加される患者さんとの面談のスケジュール管理を担ってもらっているほか、症例の選定などでもアドバイスをもらうことがあり、医師にかかる負担は軽減されていると思います。
田原 潰瘍性大腸炎に対する基本薬でもある5-ASA製剤の治験を行っています。従来、5-ASA製剤は1日3回に分けて服用するのがスタンダードでしたが、1日1回の高用量で服用したとき、どんな副作用が出るか、安全性がどこまで保たれるかといった内容の治験です。この潰瘍性大腸炎の治験は6、7年前から続いています。
患者さんの選定ですが、病診連携などで紹介された患者さんに治験に参加していただくことが多いですね。当院では済生会本部の共同治験事務局から打診された治験に対して、こちらで症例を集めて実施しています。
田原 肝細胞がんに対する薬物療法が挙げられます。この治験では、プラセボ(偽薬)と実薬によるランダム化比較試験を行いました。肝細胞がんの薬物療法では一次治療にネクサバールを使用していた時期がありましたが、現在では別の薬に変わっています。その二次治療として使用する薬剤についての治験に参加しました。この治験は続いており、治験に参加された患者さんは現在も通院しています。
それ以外では、がん性疼痛の鎮痛薬として、プラセボと実薬を比較する取り組みも実施しました。がん性疼痛の鎮痛薬は、内服薬が主流でした。そうしたなか、皮膚を通して吸収される外用薬について治験を行いました。こちらの治験はすでに終了し、3年ほど前から薬が販売されています。
田原 まず、患者さんとの信頼関係を構築することが一番大事です。そのためには丁寧な説明が欠かせません。治験に参加いただくことは、市販化される前の薬で新しい治療を受けられるメリットがある一方で、副作用などのリスクも考えられます。そのメリットとデメリットを提示した上で、納得して参加いただくことがとても大切だと思います。
患者さんご本人が同意しても、ご家族に反対されることもあるので、可能な限りご本人とご家族の両方に説明するようにしています。そこは時間を惜しまず、何度も説明して考える時間を十分に取っていただくように心がけています。
そうした丁寧な説明を実施しているためか、当院の同意取得率はとても高く、治験にもよりますが8割程度の患者さんが同意してくれることがありますね。治験の同意を得る上で大事になるのは、その治験で患者さんのメリットが見込めるかどうかを見極めることです。
田原 治験はさまざまな実臨床とは異なり、プロトコルによって厳格に規定されています。それでも副作用の観点など治験を行うことで日々の診療を見直す要素も多分にあるため、得るものは大きいといえます。そのため、当院で症例の多い疾患に関しては、今後も治験にチャレンジしていきたいと思っています。具体的には潰瘍性大腸炎や肝細胞がんになるでしょう。
治験があってこそ新薬が生まれて最終的には患者さんのためになるので、日々の臨床に取り組みながらも、できる範囲で今後も治験に力を入れていきたいと思っています。
済生会宇都宮病院 消化器内科
内科系診療部長・主任診療科長・内視鏡センター副センター長
田原 利行(たはら としゆき)
1993年慶応義塾大学医学部卒業。同年4月より慶応義塾大学病院内科に入局。その後、佐野厚生総合病院、横浜市立市民病院、慶應義塾大学病院を経て、1999年済生会宇都宮病院消化器内科へ。同院の消化器内科主任診療科長、内科系診療部長補佐を務め、2020年4月に内科系診療部長に就任し現在に至る。
社会福祉法人 恩賜財団済生会本部 共同治験事務局