田中 当院は地域の中核病院として多くの外来患者を抱えていますので、さまざまな治験に対して要望に合う症例を提供することができます。治験審査委員会には病院の運営にかかわる副院長や薬剤部長、主だった診療科の主任クラスの医師が委員として参加しているため、どの診療科がどのような治験を実施しているかを上層部がすべて把握しています。
当院では治験に参加することが評価されますし、手間のかかる事務作業については薬剤師やコーディネーターのサポートにより医師の業務量は最低限におさえられていますので、比較的ストレスなく治験に参加することができます。
治験なので一定のアクシデントはありますが、不測の事態が起こったときも、すぐに救急対応ができる体制が当院には整っています。病院全体で治験に取り組んでいるからこそ最善の手を打つことができます。
このような体制のもと、病院を挙げて治験に積極的に参加し、治験に協力いただく患者さんへの対応も院内で統一して取り組んでいます。
田中 治験に関する必要な説明はもちろんですし、それ以上に十分な説明をし、患者さんからの訴えも丁寧に聞いています。これは医師だけではなく治験コーディネーターも同様です。
当院は基本的に院外処方ですが、治験に関しては相互作用などのトラブルを防止する目的で院内処方としています。検査も許される範囲で優先的に行なっており、治験に協力いただいている感謝の気持ちとして、待ち時間の短縮などを心がけています。そのため、少なくとも私が治験審査委員会の委員になって以降、治験に対する不安や病院の対応への不満を原因とする患者さんのドロップアウトは聞いたことがありません。
田中 当院の糖尿病・内分泌内科には医師が6人在籍しており、うち4人が糖尿病専門医で、薬剤師も糖尿病療養指導士の有資格者2人を含む4人で対応しています。ほぼ全員が治験に携わっていますので、客観性を持った高いクオリティの治験が実施できます。また、検査科にも糖尿病に精通したスタッフがそろっていますので、複雑なプロトコルにも対応可能で、採血結果が即日得られることはもちろん、心臓のエコー、CT、MRIなどの検査もスピーディーに行なうことができます。
ここ数年では、GLP-1受容体作動薬の治験を2件、糖尿病性腎症の治験を1件実施しています。地域の診療所などから紹介されてくる患者さんも多く、必然的に治験の条件に合う症例も豊富で、ある程度まとまった数の症例を集めることが可能です。
また、糖尿病の合併症ではほかの診療科と連携して症例を出すなど、総合病院ならではの利点があります。当科には脂質や内分泌の専門医も複数いますので、今後は下垂体や甲状腺疾患などの治験にも参加していきたいと考えています。
田中 糖尿病は内科の慢性疾患では最も治験が行なわれている領域で、現在、中心となっているのはGLP-1とインスリンの治験です。従来のものよりも、進化した薬がどんどん出てきています。
GLP-1とインスリンはともに糖尿病治療の根幹となる薬でもあり、デイリーの投与だったものがウィークリーになったり、剤形が注射から内服になったり、体重減少効果が大幅に改善したりするなど、治験を経て治療の利便性がさまざまな形で向上しています。
従来、糖尿病といえば一生付き合わなければならない疾患でしたが、より有用性の高い治療薬の登場により、最近はガイドラインでも「寛解」を視野に入れた治療が可能になってきました。今もさらに効果の高い薬剤の治験が行なわれ、糖尿病治療の概念が大きく変わろうとしています。
田中 治験は新しい薬が世に出ることで医療の進歩につながる社会貢献だと考えています。また、治験に携わっていると臨床使用されたときに、治療のイメージがいち早くつかめるという利点もあります。
何より、自分が治験でかかわった薬に商品名がついてパンフレットなども整えられ、臨床で広く使われるようになると、子どもが大きくなって帰ってきたような感覚で素直にうれしく感じます。治験を経て上市されてもあまり使われない薬もある中、糖尿病領域では新しい薬ほど臨床で高く評価されることが多く、それも治験に携わる醍醐味になっています。
病院の方針でも治験は重視していますし、私自身も基本的に治験は受ける姿勢です。どのような治験でも要望があればまずはお話を伺い、可能な限り参加していきたいと考えています。
済生会川口総合病院
糖尿病・内分泌内科主任部長
田中 聡(たなか さとし)
2002年東京慈恵医科大学医学部卒業。同年4月より東京女子医科大学内分泌内科へ入局。2010年同科にて学位取得。2011年に埼玉県済生会川口総合病院糖尿病・内分泌内科へ。2017年同院糖尿病・内分泌内科主任部長に就任し現在に至る。
社会福祉法人 恩賜財団済生会本部 共同治験事務局