上田 当院では2005年から約100件以上の治験を受託してきました。喘息の治験の実績はそれほど多くはありませんが、約1年前から生物学的製剤(バイオ医薬品)の治験を進めています。既存の生物学的製剤を使っている患者さんを対象に、別の生物学的製剤に切り替えるという治験です。
治験の対象者は「既存の生物学的製剤を1年以上使っている患者さん」ということになるので、対象者はある程度限られてきます。加えて、喘息の治験の場合はCOPDの可能性を除外するため喫煙者は外れるので、対象者はかなり絞られ、現時点でエントリーできているのは1人です。
特にこの3年間は新型コロナウイルス感染症の影響で、なかなか新しい患者さんが見つからない状況でした。マスクを着用する、外出を控えるなどのコロナへの感染対策によって、幸いにも喘息を悪化させる患者さんが減少しました。その結果、当院の呼吸器内科への紹介が減っているのが現状です。
上田 準備しているのが睡眠時無呼吸症候群の薬に対する治験です。ただ、これは「治療をしているにも関わらず、眠気が残っている人」という条件があるため、対象となる患者さんが少ないです。それでも治験コーディネーター(CRC)と連携して少なくとも1人の対象者が見つかっています。
上田 当院は病床数が670床と済生会の中でも多く、さまざまな診療科を設けており、多様な症状の患者さんと向き合っています。そのため多様な症例への実績や豊富な知見があります。また、開業以来、大阪駅から徒歩圏内の場所で100年以上診療を続けており、地域の患者さんから信頼されているのも大きいと思います。
当院には8人のCRCが在職していることも特徴に挙げられます。治験を行う上で大変なのが対象者を探し出すことですが、医師は日々の診療に追われているため、CRCが対象者をピックアップしてくれています。
上田 まずは患者さんとの信頼関係を築くことが大事だと思います。そのためには診察の際の小まめなコミュニケーションは必要不可欠です。そうした患者さんとの日々の触れ合いの中から、治験の提案もできるようになります。
上田 治験を行うことで病院全体や診療科のモチベーション向上につながると思っています。医師としても治験を経験することで最新の診療についての知識が深まり、成長につながります。
多施設共同臨床研究などにおいても同じように勉強になる点が多く、できるだけ参加するようにしています。
また、慢性副鼻腔炎の患者さんが喘息を合併するケースもあるため、耳鼻科と連携して診療にあたるなど他の診療科との連携も進めています。
そのほかに院内における多職種連携も進めており、コロナ禍の中で吸入薬の使い方などのレクチャーをオンラインで実施するなどの取り組みを行っています。吸入薬の使い方は、院内にとどまらず「吸入療法のステップアップをめざす会」というNPO法人を通じても情報発信を進めています。こうした情報共有や情報発信を行う中で得たノウハウや経験を踏まえ、新しい治験にもチャレンジできればと考えています。
上田 喘息やCOPDなどに限らず、もっと多くの治験を実施していきたいと思っています。治験の実績を積み重ねることで、製薬会社などからの信頼を得て、新たな治験につながる可能性も出てきます。そのためには日々の診療をきちんと行って、対象となりうる患者さんを把握しておくことが大事になってくるでしょう。治験に耐えうる、レベルの高い診療をすべての医師が普段から行っていくことが重要だと思っています。
済生会中津病院
呼吸器内科部長
上田 哲也(うえだ てつや)
1996年京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所呼吸器感染症科、神鋼病院呼吸器内科、京都大学大学院医学研究科博士課程、北野病院呼吸器内科などを経て、2008年に大阪府済生会中津病院呼吸器内科へ。2009年同院呼吸器内科副部長、2022年8月同院呼吸器内科部長に就任し現在に至る。
社会福祉法人 恩賜財団済生会本部 共同治験事務局