社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2015.04.08

腹部大動脈瘤

Abdominal Aortic Aneurysm

解説:沖山 信 (元 横浜市南部病院 心臓血管・呼吸器外科 医長)

腹部大動脈瘤はこんな病気

心臓から全身に血液を運ぶ「動脈」のなかで、心臓から出てすぐの太い部分が「大動脈」です。「大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)」とは、その大動脈が太くなって「こぶ(瘤)」のようになる病気です。大動脈はむね(胸部)とおなか(腹部)に分かれますが、その正常な太さは胸部で3cm、腹部で2cmです。それが1.5倍以上、つまり胸部で4.5cm、腹部で3cmを超えると、「大動脈瘤」の診断となります。大動脈瘤は破裂するまでほとんどの場合無症状ですが、破裂すると高い確率で死に至ります(突然死)。大動脈瘤のうち、最も多いのがおなかにできる「腹部大動脈瘤」です。

腹部大動脈瘤の位置
腹部大動脈瘤の位置

大動脈瘤は「がん」などと違って、診断がついたらすぐ手術を考えなければいけない病気ではありません。破裂(突然死)を予防することが手術の目的であり、破裂の危険がほとんどない(小さい)動脈瘤の場合は定期的な経過観察が行われます(主にCT:コンピュータ断層撮影)。経過観察していくうちに動脈瘤が成長して、腹部であれば4.5~5cmを超えると破裂の危険が高まるため、手術が検討されます。もちろん診断がついた時点でその大きさの場合もあり、その時は最初から手術が検討されます。

腹部大動脈瘤の治療法

大動脈瘤が小さくなる薬は、残念ながらまだ開発されていません。治療法は手術しかありませんが、手術の方法は大きく分けて2つあります。

一つは以前から行われている、おなかを開けて(開腹)こぶを切りとり、医療用の特殊な繊維でできた「人工血管」に取り換える方法です(人工血管置換)。

もう一つは2006年7月に日本で認可された後、現在まで非常に多くの患者さんに使われるようになった「ステントグラフト治療」です。現在では腹部大動脈瘤の患者さんの半数以上が、ステントグラフトによって治療されています。ステントグラフト治療は「血管内治療」ともいわれ、人工血管(グラフト)に金属の骨格(ステント)がついたものを、血管の中から細い管(カテーテル)によって挿入する方法です。両足の付け根の小さな(3~4cm)のきずから動脈の中にカテーテルを入れ、こぶの中にステントグラフトを置いて「内張り」することで、こぶに血液が流れないようになって破裂が予防されます。きずが小さくて痛みが少なく、おなかを開けないので翌日から食事ができるなど、いいことづくめのような治療法ですが、残念ながらデメリットもあります。こぶの中に血液の漏れが残ってしまい(エンドリーク)、術後も破裂の危険が残ってしまう場合があることや、耐久性の問題(何年も経つと壊れてくる可能性がある)などです。また、こぶの形によっては最初からステントグラフト治療が困難な場合もあります。

手術を受ける場合は、どちらの治療を選択するかを、担当医とよく相談してから決めた方がよいでしょう。

早期発見のポイント

腹部大動脈はおなかの最も深い部分を流れているため、表面からは分からない(触れない)ことがほとんどです。腹部大動脈瘤(ふくぶだいどうみゃくりゅう)ができると、大きさによってはおなかに「ドキドキする」かたまりを触ることがあります(拍動性腫瘤:はくどうせいしゅりゅう)。

ただ、体格によっては、かなりの大きさになっても表面からは何の異常もないことも多く、触って検査する(触診)だけでは限界があります。そこで重要なのが「腹部超音波検査(エコー)」などの機械による検査です。腹部エコーは、最近はクリニックの健康診断や人間ドックでも広く行われるようになってきましたが、痛みもなく簡単な検査です。CT(コンピュータ断層撮影)ほど正確な診断はできないまでも、「これはCTでさらに精密検査をした方がよさそうだ」といった判定はエコーだけでも十分できます。

健康な方すべてが年一回CT検査をするのは過剰ですが、年に一回か2年に一回程度、腹部エコーを受けることが適切ではないでしょうか。

予防の基礎知識

大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)の原因として、年齢が若い場合は生まれつき大動脈がもろい病気(マルファン症候群)なども知られていますが、多くは「加齢」「高血圧」「動脈硬化」が原因とされています。

「加齢」を防ぐことはできないため、後の2つを予防することが重要となります。大動脈瘤は欧米人と比較して日本人に多いとされていますが、その原因の一つに高血圧の患者さんが多いことが挙げられています。日頃から塩分の少ない食生活を心掛け、定期的(できれば毎日)に血圧を測って記録をつけるようにしましょう。その記録をかかりつけのクリニック(または人間ドックなど)で見せて、担当医が必要と判断したら血圧を下げる薬(降圧薬)を内服してください。降圧薬の内服を「一度飲んだらやめられなくなるのではないか」などと、あまり快く思わない方も多いですが、高血圧は大動脈瘤以外にもさまざまな病気の原因になります。担当医に処方された薬は、自己判断せずにきちんと内服しましょう。

その他「動脈硬化」の危険因子(それらを持っていると動脈硬化が進みやすい)として、喫煙・糖尿病脂質異常症・家族歴(血縁の家族に動脈硬化の病気がある)なども知られています。現在喫煙している方は禁煙を心掛け、定期的に健康診断(採血)を受けて糖尿病や脂質異常症の徴候を見逃さないことも重要でしょう。

解説:沖山 信
横浜市南部病院
心臓血管・呼吸器外科 医長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE