2022年度診療報酬改定で新たに8術式が保険適用されるなど、治療法として広まりつつある「ロボット支援手術」。従来の手術に比べてどんなメリットがあるのでしょうか? 心配ごとや素朴な疑問なども含め、済生会横浜市東部病院・ロボット手術センター長の石田勝先生に実際の現場で尋ねてみました。
「ロボット支援手術」とは?
がんの3大治療は外科手術、化学療法(薬物療法)、放射線療法です。このうち例えば腹部の外科手術であれば、開腹手術と腹腔鏡(ふくくうきょう)手術があります。近年注目の「ロボット支援手術」は腹腔鏡(内視鏡)手術の一種で、医師がロボットを操作して行なう手術です。
●最新機器「ダビンチXi」
現在最も普及している手術支援ロボットは90年代にアメリカで開発された「ダビンチ」。最新機器の「ダビンチXi(エックスアイ)」は第4世代です。医師が4本のアームを遠隔操作し手術を行ないますが、モニターには高画質の3次元立体画像が映し出されるため細部まで鮮明に見え、拡大も自由自在。アーム先端に装着した器具・鉗子(かんし)には手首のような関節機能があり、人の手や指では不可能な曲げ方や回転も可能で、より深い場所で精緻な作業を行なうことができます。
手術支援ロボット「ダビンチXi」のシステム
アームの先端には3Dカメラが取り付けられている
医師は操作部のモニターで3D画像を見ながら手元のレバーで4本のアームを操る
ロボット支援手術の技術を動画でチェック!
横浜市東部病院では、ダビンチのアームの動きや折り鶴が折れるなど、驚きの手技を動画で紹介しています。
どんな病気でもロボット支援手術ができるの? 費用は?
患者さんの状態やこれまでに受けた手術などによりますが、まずは担当医や十分な手術実績のある医療機関に相談して、自分のケースがロボット支援手術の対象になるかを確認しましょう。
●保険適用の対象疾患
ロボット支援手術で健康保険適用される疾患は以下です。
前立腺がん、腎細胞がん、膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、副腎腫瘍、腎盂尿管移行部狭窄症、食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がん、膵体尾部腫瘍、膵頭部腫瘍、肝臓がん、良性子宮疾患、子宮体がん、骨盤臓器脱、肺がん、縦隔腫瘍、心臓弁膜症
※ただし、厚生労働省が定める施設基準を満たしているかどうかで、医療機関ごとに実施している手術の種類が異なります。
●費用
保険適用で手術を受ける場合は、自由診療時の負担額からは大幅に下がり、通常の腹腔鏡手術とあまり変わりません。また、患者さんの年齢や収入、健康保険制度によっても負担割合が異なります。高額療養費制度を利用すれば、負担額はさらに下がります。
→前立腺がんの場合、70歳未満・保険適用による3割負担で45万円程度(高額療養費制度で10万円前後)が目安。

A: 当院では約1500件の手術実績がありますが、今まで手術続行不可能になった例はありません。停電の場合はバックアップ電源があり、仮にシステムダウンが起こった場合でも、開腹手術に切り替えるため続行可能です(ロボット支援手術が続行不可能なシステムダウンの可能性は、海外の報告によれば0.05~0.4%程度)。
従来手術とロボット支援手術の違いは?
前立腺がんを例に、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術それぞれの違い(メリット・デメリットなど)を下記にまとめました。
●開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術の違い(前立腺がんの場合)
開腹手術 | 腹腔鏡手術 | ロボット支援手術 | |
---|---|---|---|
傷口 | 大きい | 小さい(4カ所) | 小さい(5、6カ所) |
出血 | 多い | 少ない~中程度 | とても少ない~少ない |
合併症・感染症のリスク | 中程度~高い | 低い~中程度 | 低い |
術後の痛み | 大きい | 少ない | 少ない |
術後の尿漏れ | 回復が遅い | 回復がやや早い | 回復が早い |
勃起機能の温存率 | 低い | 中程度 | 中程度~高い |
がんの摘除率 | 低い~中程度 | 中程度 | 中程度~高い |

A: 腹腔鏡手術は難易度が高い手術ですが、ロボットを使えば安全で精度の高い手術ができます。例えば、血管が複雑に交錯して見えづらい場所や、手が入りにくい狭い箇所でもアームが自在に動き、手ブレ防止機能もあるため、周囲の血管や神経を傷つけるなどのリスクが減ります。縫合も素早くできるので時間短縮になります。
最大のメリットは高精度の安全性とQOLの向上
ロボットというと無機質なイメージがありますが、動かすのは人。そしてロボットのアームは人の手より関節の動きに制限がありません。3本のアームが助手の手の代わりとなり、自分の意志のままに動かせます。カメラを装着した4本目のアームは向きや角度も自由に変えられるので、従来はできなかった横からも患部を覗くことができます。
ロボット支援手術は難易度が高い手術ほどその効果を発揮します。傷口が小さく出血も少ないため、身体への負担が少なく、術後の回復が早い。また術後の合併症も起きにくく、機能温存もしやすい、そしてがんの取り残しも少ない。つまり、患者さんのQOL(生活の質)向上につながります。
「私たちも精度と安全性が高い手術を安心して行なえるので、そのよさを広く一般にも知ってもらいたいと考えています」。
解説:石田 勝
横浜市東部病院
ロボット手術センター長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。
※診断・治療を必要とする方は最寄りの医療機関やかかりつけ医にご相談ください。
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