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2016.05.31
前立腺がんとは、前立腺の細胞がなんらかの原因によって無秩序に自己増殖を起こす病気です。前立腺は男性生殖器の一つで、膀胱の下にあります。前立腺の大きさは15~20gのクルミ大で、その中を尿道が走っています。精液の一部で、精子を活性化させる働きのある前立腺液を分泌しています。
前立腺の位置と前立腺がんの好発部位
前立腺がんは、数ある泌尿器がんの中で最も重要ながんです。日本における近年の統計では、部位別がん死亡数の第5位(2013年)、部位別がん罹患数の第3位(2010年)と急速に増加しています。特徴としては、50歳以上の比較的高齢男性に発症することと、男性ホルモン依存性(男性ホルモンががんの増殖に関係している)であるということが挙げられます。
一般的に、前立腺がんの進行はゆるやかです。15~20年かけて、局所限局がん→局所進行がん→転移がん→ホルモン不応がん→死亡へ進行すると考えられています。進行が進むほど速度が速まるため、どの時点で治療に介入するかが重要になってきます。また、前立腺がんには、ラテントがんという病態があります。これは他の病気で死亡後に解剖によって初めて確認されるがんで、加齢とともに増加し50歳以上の20~30%に認められます。
前立腺がんの確定診断は、針生検(太い針を刺して組織の一部を切り取って調べる検査)によりがん細胞を証明することで行います。前立腺原発の悪性腫瘍は、大半が腺がんです。尿路上皮がん、小細胞がんなど特殊な組織型のがんも発生することがあります。
がんの進行度は、「病期(ステージ)」という言葉を使って示します。治療前に患者から得た情報で判断する臨床病期診断には、以下のように「TNM分類」と「ABCD分類」とがあります。
TNM分類
(T:原発腫瘍、N:所属リンパ節、M:遠隔転移)
T1 直腸診で触れない、画像で診断できないがん
T1a 切除標本の5%以下にがんが発見される
T1b 切除標本の5%を超えた部分にがんが発見される
T1c PSA(前立腺特異抗原)高値などにより行われた針生検によりがんが確認される
T2 前立腺内にとどまるがん
T2a 片葉の1/2以下のがん
T2b 片葉の1/2超のがん
T2c 両葉にがんがある
T3 被膜を超えて浸潤するがん
T3a 被膜外へ浸潤している
T3b 精のうへ浸潤している
T4 精のう以外の隣接臓器に固定または浸潤するがん
N0 所属リンパ節への転移なし
N1 所属リンパ節への転移あり
M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり
M1a 所属リンパ節以外のリンパ節転移あり
M1b 骨転移あり
M1c リンパ節・骨以外の転移あり
ABCD分類
A 良性前立腺手術において、たまたま組織学的診断されたがん(偶発がん)
A1 高分化型腺がん
A2 中あるいは低分化型腺がん、あるいは複数の病巣
B 前立腺に限局しているがん
B0 触診で触れずPSA高値で精査診断されたがん
B1 片葉内単発
B2 片葉全体あるいは両葉
C 前立腺周囲にとどまるが、被膜をこえるか精のう浸潤しているがん
C1 臨床的に被膜外浸潤
C2 膀胱頸部あるいは尿管閉塞
D 転移しているがん
D1 所属リンパ節に転移
D2 所属リンパ節以外のリンパ節転移、骨そのほかの臓器に転移
D3 D2に対する内分泌療法後再燃
治療法は、年齢やがんの悪性度、合併する疾患、本人の希望などが考慮されますが、大きく分けて以下の4つがあります。
1.PSA監視療法:ある種の条件を満たす場合、定期的にPSA検査などをして経過を見る方法
2.手術療法:開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術などがあり、勃起神経を温存する手術も行われている
3.放射線療法:外照射(多くは強度変調放射線療法)、密封小線源など
4.ホルモン療法:一般的には、完全アンドロゲン遮断療法が行われる
そのほか、去勢抵抗性前立腺がんに対する治療が、前立腺がんの生命予後に最も重要です。これに対しては、現在、抗がん剤(ドセタキセル、カバジタキセル)、新規ホルモン療法薬(アビラテロン、エンザルタミド)などがあり予後改善が期待できます。
ただし、治療に伴い有害事象が発生すことがあります。例えば、手術療法では術後尿失禁、放射線療法では直腸膀胱障害、ホルモン療法では更年期様症状や筋力低下などを引き起こす可能性があります。
PSA(前立腺特異抗原)という非常に優秀な腫瘍マーカーがあり、早期発見が可能です。50歳以上の男性は、スクリーニング検査を受けましょう。PSA値が1.0以下の人は3年に1度、それ以上の人は毎年の検査をおすすめします。特に、直系家族(親兄弟)に前立腺がんのある人は、がんの可能性が高まりますので、40歳からのPSA検診が推奨されます。ただし、PSA検診では、生命予後に関与しないがんを発見している場合もあるため、治療についてはよく主治医と相談しましょう。
予防については、明確なエビデンス(根拠)のあるものはありません。食生活では、大豆・緑茶・ビタミンE・魚・コーヒーなどの成分が発症リスクを低下させる可能性があるとの報告がなされています。逆に、乳製品・カルシウム・肉の摂取や喫煙が発症リスクを上昇させるという報告もあります。
解説:藤戸 章
吹田病院
副院長・泌尿器科科長
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