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2014.04.16
前立腺は、尿道を取り巻くように膀胱の出口に存在する男性特有の臓器で、精子の栄養源となる精液の約3分の1を占めている、前立腺液を分泌する働きがあります。前立腺液は、精子を保護したり、精子に栄養を与える役割を果たしています。
前立腺肥大症とは、前立腺が肥大することにより尿道が圧迫されて、排尿障害をきたす病気です。50歳頃から加齢とともに増加し、50歳代男性では20~30%、80歳以上になると80~90%が前立腺肥大症になるといわれています。
前立腺肥大症の初期には治療の必要はありませんが、軽症~中等症になると薬物療法を行ないます。前立腺や尿道の筋肉の緊張を和らげて尿を出やすくする「α1遮断薬」が最も多く使われます。「α1遮断薬」は即効性があり、通常は飲み始めて1週間以内から効果が出てきます。そのほか、即効性はないものの男性ホルモンの作用をおさえて、肥大した前立腺を徐々に小さくする作用がある「5α還元酵素阻害薬」や、頻尿や残尿感などの症状を和らげる効果がある、植物製剤や漢方薬なども使われます。
薬物療法を行なっても排尿症状が改善せず、尿閉(にょうへい/尿が詰まって出なくなること)や血尿、膀胱炎を繰り返す場合や、膀胱結石ができたり腎機能が悪化すれば手術が勧められます。お腹を切らずに尿道から内視鏡を挿入して、肥大した前立腺を高周波電流で切除する「経尿道的前立腺切除術(TUR-P)」が標準的な手術法ですが、最近では、レーザーを用いて肥大した前立腺組織を摘出する「ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)」を行なう病院が増えています。HoLEPは、TUR-Pでは切除が難しく、開腹手術が必要となるほど大きく肥大した前立腺でも、出血を少なくおさえて完全に摘出することができる安全な手術法です。
以下の症状が現れたら、前立腺肥大症を疑いましょう。
1 排尿症状(尿が出にくい症状)
尿の勢いが弱い、尿が出始めるまでに時間がかかる(尿をしたくてもなかなか出ない)、 尿が分かれる、排尿の途中で尿が途切れる、尿をするときに力まなければならない。
2 畜尿症状(膀胱に尿をためにくい症状)
昼間のトイレが近い、夜中にトイレに起きる、急に尿をしたくなり我慢ができない、尿を我慢できずに漏らしてしまう。
3 排尿後症状(尿をし終わった後の症状)
排尿後も尿が残っている感じがする。
初期には、トイレに行く回数が増えるのが特徴です。特に、夜寝てから2~3回排尿のために起きるようになります。尿の勢いが弱くなり、排尿後にすっきりしないと感じ始めます。
病状が進行すると、トイレに行っても尿が出そうで出ない感じになり、尿が出始めてから出終わるまで時間がかかるようになります。排尿後は尿が残った感じがあり、排尿の異常をはっきり自覚するようになります。
さらに重症化すると、尿が詰まって出なくなる尿閉という状態になります。一時的に改善することもありますが、慢性尿閉状態が持続すると、腎機能にも影響が及び、腎不全(尿毒症)になることもあります。このような状態になる前に、早めに治療を行なうことが必要です。
前立腺肥大症以外でも、尿道狭窄や膀胱結石、あるいは脳卒中後遺症や脊髄損傷、糖尿病性神経障害、直腸がん、子宮がん手術後に起こる膀胱の神経障害である神経因性膀胱などでも排尿異常が起こります。しかし、50歳以上の男性で排尿異常がある場合に、一番気になる病気は前立腺がんです。
前立腺肥大症と前立腺がんは、治療する薬物の種類も手術法も全く異なるので、前立腺がんではないかどうかを見極めることが非常に重要です。前立腺肥大症と前立腺がんとは、血液検査(PSA検査)でおおよそ区別がつくので、上記のような症状が気になる方は、かかりつけの医師か、泌尿器科の医師に相談することをお勧めします。
前立腺肥大症の原因ははっきりとは解明されていません。しかし、男性ホルモンが減少してくる50歳以降に、前立腺が肥大する人が多くなることから、加齢に伴って性ホルモンのバランスが崩れることが、前立腺の肥大に関与していると考えられています。したがって、加齢を止める以外に根本的な予防法はありません。
しかしながら、食生活の欧米化が進んだ高度経済成長期以降、急激に前立腺肥大症の患者数が増加していることから、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症と前立腺肥大症との関係が指摘されています。そのため、食生活に気を配ることは、前立腺肥大症の進行予防につながると思われます。メタボリック症候群と同様に、食事の過剰摂取を控え、バランスのよい食生活をしましょう。具体的には、動物性食品である肉類や乳製品を控え、魚や植物性食品を主体とした食事、すなわち洋食中心の食生活から、和食中心の食生活に戻すことをお勧めします。なお、野菜、穀物、大豆などに多く含まれているイソフラボノイドは、前立腺肥大症の発症抑制効果があると報告されています(ただし、前立腺肥大症の絶対的な予防になるということではありません)。
また、日常生活での注意事項は以下になります。これらは、排尿の症状を少しでも改善したり、悪化させないための方法です。
1 規則則正しい生活をおくり、適度な運動をする
これはすべてのよりよい生活習慣につながります。
2 排尿を我慢しすぎないようにする
尿を膀胱にためすぎると、膀胱の筋肉が伸びきってしまい、排尿をしようとしてもうまく出ないことがあります。
3 下半身を冷やさないようにする
冷えは下半身の血行を悪くし、前立腺をうっ血させて尿を出にくくします。お風呂は、ぬるめのお湯に長めに入ると前立腺の血行がよくなり、自律神経の興奮が取れて排尿状態を改善する効果があります。
4 長時間の座りっぱなしを避ける
座りっぱなしだと骨盤内がうっ血して前立腺が腫れて、尿の出方が悪くなります。ときどき、体を動かすようにしましょう。
5 飲酒は控えめにする
アルコールは前立腺を充血させます。また、大量の飲酒により、尿が詰まって尿閉になることがあります。利尿作用によって飲んだ水分以上に尿が排泄されるため、トイレの回数が増えます。
6 刺激物は控えめにする
コショウやわさび、からしなどの香辛料の摂り過ぎやコーヒーの飲み過ぎは、前立腺が充血する原因になります。
7 便秘にならないように気をつける
骨盤内がうっ血して前立腺が腫れてしまいます。
8 薬を飲むときは、医師に相談する
風邪薬や頭痛薬、そのほか精神疾患治療薬などの中には、尿が出にくくなる成分が含まれているものがあります。
解説:松尾 良一
済生会長崎病院
泌尿器科部長
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