済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
前立腺は男性だけにある臓器で、精子を守る白い液「前立腺液」(精液の一部)を作ったり、射精の際に精液を外に出したりといった働きをします。
主に子どもを作る50歳以下まで活躍し、子どもを作らなくなると役割は少なくなりますが、それと反比例して50歳を超えてくると前立腺に異常がみられるようになってきます。
近年、前立腺に悪性腫瘍ができる「前立腺がん」の患者さんが増えています。
国立がん研究センターのがん罹患数の統計によると、2015年に前立腺がんが日本の男性で最も多いがんになり、以降1位であり続けています。現状は胃がんや大腸がん、肺がんと横並びに近い状態ですが、前立腺がんは急激に増加しており今後10年も経つと突出して多くなる可能性があります。
前立腺がんが増加している要因は大きく2つ挙げられます。「食文化の欧米化」と「高齢化」です。 欧米では日本よりも20年ほど早く前立腺がんが男性のがんの罹患数トップになっていました。もともと日本ではそれほど多くなかったのですが、食文化の欧米化が進み、高脂肪・高タンパクの食生活が広がった影響で、前立腺がんの患者さんが増加しています。また、前立腺がんは50歳を過ぎる頃から増え始めますが、患者さんの多くは70歳以上です。つまり高齢化の進行に伴って前立腺がんの患者さんも増えていくのです。
前立腺がんの患者さんが増える中で早期発見と早期治療が大事になります。そこで注目されているのが、的確にがんを見つける最新の診断方法です。
前立腺がんの診断の手順は、まずスクリーニング検査(ふるい分けのための検査)を行ないます。これは「PSA検査」と呼ばれる血液検査で簡単に済みます。PSAは前立腺から分泌されるタンパク質の一種です。PSAの値が高ければ、直腸診や超音波(エコー)検査、MRI検査なども行ないます。その結果、がんが疑われる場合は、確定診断のために針生検で組織を採取します。
針生検では超音波プローブという器具を肛門に挿入して前立腺の超音波画像を映し、針を刺す場所を決めます。
従来は、事前に撮影したMRI画像を医師がイメージしながら、超音波の画像を見てがんが発生することが多い「辺縁域」といわれる場所に約12カ所針を刺す方法が主流でした。ただ、この方法は医師の記憶や経験に頼るところが大きく、針を正しい場所に刺せなければ、前立腺がんがあっても確定診断ができないという課題がありました。
他のがんの場合、上述のようにおおよその場所に見当をつけて生検を行なうことはまれです。多くはターゲットとなる病変の位置を定めた「標的生検」を行ないます。
前立腺がんでは、事前に撮影したMRIでは疑わしい組織(標的)が特定できても、生検時の超音波画像ではその場所を同定できず、「標的生検」ができなかったのです。
ところが、最新の技術によって事前に撮影したMRI画像と生検時の超音波画像のズレを補正して融合。画像処理技術によりリアルタイムで超音波画像の上にMRIで見えた場所を指し示すことが可能になりました。その結果、針生検を行なう際に正確に狙った組織を採取する「標的生検(MRI融合標的生検)」ができるようになったのです。
最新の「標的生検」では、1カ所の標的に対して3針を刺します。手術室にいる時間は麻酔で10~15分、生検に15分で合計30分程度。下半身麻酔を行なうことや発熱など合併症の可能性があることから、患者さんは1泊2日の入院をして生検を受けます。生検に要する時間は従来の針生検とおおよそ同じです。
<MRIの進歩でがんが見えるように>
前立腺がんはこれまで「見えないがん」といわれ、どこにあるのか特定するのが難しい時代が続きました。それが2010年代に入り、MRIの進歩によって悪性度の高い前立腺がんの80~85%は見えるようになりました。MRIで見つけたがんが生検の際も見えるようになれば、確定診断の精度が高まります。MRIと超音波の画像を融合する「標的生検」の技術の前段階として、見えなかった前立腺がんが見えるようになったことは大きな進歩といえます。
最新の「標的生検」ではどのくらいの精度で前立腺がんの組織を採取できるのでしょうか?
川口総合病院では、手術で摘出した前立腺がんの組織から、生検の精度を調べました。その結果、「標的生検」では96%の確率でがんの確定診断ができていました。一方、従来の針生検ではその確率は64%にとどまっており、およそ3分の1は生検でがんの組織を採取できていなかったことになります。
また、「標的生検」で採取した組織からがんの悪性度も調べるのですが、こちらも96%の確率で実際のがんと悪性度が一致していました。
これらの結果から、「標的生検」によってがんの場所だけでなく、がんの悪性度も高い確率で判明することが分かります。
そして、どこにがんがあってどの程度の悪性度かが正確に分かれば、仮に手術で前立腺を摘出する際も機能を損なわないように神経を残すなど、QOL(生活の質)を考慮した治療法の実現に期待がかかります。
この「標的生検」ですが、先進医療として2016年から始まり、2022年4月から保険適用になりました。
最新の「標的生検」で前立腺がんの確定診断の精度が高まりますが、その前にスクリーニングでPSA検査を行なってがんの可能性を調べることも大事です。血液中のPSA値が高ければ前立腺に異常が起こっている目印となります。
日本泌尿器科学会の「前立腺がん検診ガイドライン」では、50歳を超えれば血液検査でPSAの値を測り、5年ごとを目安に定期的に検査を受けることを推奨しています。PSA検査は健康診断のオプションとして、数千円で受けることができます。
前立腺がんの治療法は手術や放射線治療ですが、ともに技術が進歩しており、早期に発見できれば85~90%は治せるといわれています。
男性の罹患数でトップの前立腺がん。PSA検査、さらには「標的生検」によって、前立腺がんの早期発見と早期治療につなげるようにしましょう。
解説:橋本 恭伸
川口総合病院
泌尿器科 主任部長
※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。