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「化学物質過敏症」とは、神経に影響する化学物質に大量あるいは低濃度でも長期に触れることで、自律神経失調やアレルギー症状に似た身体反応を生じるようになると考えられています。しかし、実はまだ仮説の段階で、発症に至る詳しいメカニズムは分かっていません。
いったん発症すると、たとえ微量であっても化学物質に再び触れることで、身体がその物質に過敏な反応を示すようになり、体調不良になります。重症化すると仕事や家事ができないなど、日常生活も営めなくなることがあります。
しかし最初から化学物質が駄目だったわけではなく、匂いなどの成分に触れるうちに、ある瞬間から今まで嗅いだり触れたりしていた芳香剤や柔軟剤などに対して突然反応するようになります。
精神的な症状を主とした心因性の要素も関与するといわれていますが、心理テストなどの尺度や基準も確立されておらず、現状では明確になっていません。
かつてこのような症状を起こす原因物質の筆頭は、ホルムアルデヒドなど毒性が強い有機化合物でした。ホルムアルデヒドは、建材や建物環境によって起こる中毒症状「シックハウス症候群」の原因物質ですが、昨今の話題の中心は、芳香剤などに含まれる「香料」です。
アメリカでは1990年代からすでに社会問題化していましたが、90年代当初の日本ではあまり知られていませんでした。2000年以降、化学物質の解釈が拡大し、最近では化学物質過敏症といえば、主に香料を中心とした「匂い」に対する過敏症状を指し、別名「香害」とも呼ばれています。
コロナ禍で除菌・抗菌グッズやアルコール消毒液などが新たな原因物質に
香りつき合成洗剤や柔軟剤、芳香剤、化粧品、香水などの人工香料に注目が集まっていますが、コロナ禍においては、新たに抗菌・除菌グッズやアルコール消毒液なども格段に使う機会が増えました。これらも化学物質過敏症の原因物質の一つになります。
シックハウス症候群には分かりやすいホルムアルデヒドという犯人がいますが、芳香剤や柔軟剤となると、さまざまな匂いがあり、なかなか原因物質を特定できません。ある特定の化学物質があるわけではなく、匂いを出す物質は合成され、膨大な数にのぼります。
発症しやすい人の傾向としては、①以前は健康であった人が罹患しやすい、②女性に多く40~50歳代に多い、③アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー疾患保有者の発症リスクが高い、などの傾向があります。しかしいずれも疫学調査の結果であり、原因までは分かっていません。
2000年の調査では、高感受性を持つと考えられる人の割合は0.74%。アメリカではこの10倍以上(16%、ただし90年代)の報告があります。
主な症状としては、頭痛やめまい、吐き気、倦怠感などがみられますが、それ以外にも気分が悪くなって我慢できなくなるほか、精神不安定なども起こります。匂いに触れるだけでつらい思いをしたり、調子が悪くなるという病気なので、検査では身体の異常はなかなか現れません。
しかし診断にあたり、必ずしも原因が分かることが条件というわけではありません。目の前にそういう症状で苦しんでいる人がいれば、医師は対処します。もし日常生活に支障をきたしているのであれば、医療機関(あれば化学物質過敏症専門外来)の受診をお勧めします。
<症状を引き起こす身近にある製品>
合成洗剤、漂白剤、柔軟剤、香水、アロマ、化粧品、シャンプー、リンス、整髪料、制汗剤、抗菌・除菌製品、芳香剤、消臭剤、殺虫剤、衣類用防虫剤、接着剤、ワックス・塗料、園芸用農薬(化学肥料)など
化学物質過敏症の主な症状 | |
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自律神経障害 | 発汗異常、手足の冷え、頭痛、疲れやすい |
内耳障害 | めまい、ふらつき、耳鳴り |
気道障害 | 咽頭痛、口の渇き |
循環器障害 | 動悸、不整脈、循環障害 |
免疫障害 | 皮膚炎、喘息、自己免疫異常 |
運動機能障害 | 筋力低下、筋肉痛、関節痛、ふるえ |
消化器障害 | 下痢、便秘、吐き気 |
眼科的障害 | 結膜の刺激症状、調節障害、視力障害 |
精神障害 | 不眠、不安、うつ状態、不定愁訴 |
症状がある人の対策としては、まずは原因物質からの隔離が一番です。例えばシックハウス症候群は、その家から引っ越すなどの転地療法が推奨されます。匂いで体調不良を起こすのであれば、なるべく香料を含む日用品を使わない生活をする、マスクをする、少し消極的ですが人が集まるところに行かないなど、とにかく原因物質を避ける、触れないことが大事です。
そしてこの問題で一番大事なのは、周囲の人々の理解です。
自分が特に問題と感じないわずかな匂いや化学物質であっても、つらい症状が出て外出もままならない人や、逆に自宅にいることすらできない人もいます。あるいは、女性であっても電車の女性専用車両は化粧品や香水などの匂いが強く、使用できない人もいます。本人の努力だけではどうにもならないことが多いので、家族など身近な人たちは、気のせい、神経質すぎるなどと決めつけず、そういう概念、症状があるということを理解しましょう。
そして自分たちも少し芳香剤や柔軟剤の使用に敏感になって使用を控える、少なくとも日常的に使う洗剤などを無香のものに変えていくなど、匂いに頼らない生活を目指すという考え方もあります。
空気はみんなで共有して使うものなので、なかなか難しい問題です。個人的にはいい匂いだと思っていても、それで体調不良に陥る人もいるということ、困っている人がいるということ、そして診断もついている人がいるということを、まずは知ることから始めましょう。
参考資料
日衛誌 (Jpn. J. Hyg.),73,1–8(2018)
アレルギー50(4), 361-364, 2001)
解説:清水良憲
福井県済生会病院
耳鼻咽喉科主任部長代行・副部長
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