済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
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多くの生物は、地球の自転周期に合わせて約24時間周期のリズム(概日リズム)を備えています。細胞レベルに存在するそれぞれの時計遺伝子が、一定のリズムを刻み、コントロールするシステムを「体内時計」と呼んでいます。
私たちの身体は、睡眠、覚醒、体温、エネルギー代謝、ホルモン分泌などの生理現象が、概日リズムによって変動しています。しかしその周期はおよそ24.5時間と、地球の自転周期である24時間より長いため、このずれを毎日リセットする必要があります。
体内時計には、大きく分けて「中枢時計」と「末梢時計」の2種類あります。メインの「中枢時計」は、脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)にあり、全身をコントロールしています。サブの「末梢時計」は、脳、心臓、胃、腸、皮膚、血液、筋肉などの臓器や組織に存在し、それぞれのリズムを刻んでいます。中枢時計は目に近いところにあるため、朝の太陽光でリセットされ、末梢時計は朝食や運動などでリセットされます。
朝食をとると、消化酵素やホルモンが分泌され、腸の蠕動(ぜんどう)運動が始まるなど、体内時計をリセットするきっかけになります。体内時計を栄養学の観点から研究するのが時間栄養学ですが、なにを食べるかだけでなく「いつ」食べるか、身体のリズムや吸収・代謝の「時間帯」を意識して行動することの重要性が増しています。
本来私たちの身体は、昼間効率良くエネルギーを生み出すことで身体能力を最大限に発揮し、夜間は余分なエネルギーを貯蔵し、休む機能が備わっています。しかし体内時計が乱れると、いわゆる時差ボケのような状態になります。それぞれの臓器や組織が持つ適切なリズムを狂わせ、働きを阻害するため、体調不良が起こります。また、生活習慣病や肥満、がん、うつ病の危険性が高まり、老化現象が加速するという報告も多数あります。
体内時計の乱れで肌も老化?
例えば、睡眠を促すホルモンであるメラトニンは、夜間に80%が分泌されますが、夜に光、特にスマホやパソコンなどから発せられる「ブルーライト」を浴びることで時計がずれ、メラトニンの分泌が抑えられます。メラトニンには抗酸化作用もあるため、抗酸化作用が低下すると酸化ストレスがかかりやすくなります。その結果、活性酸素が増え、肌老化の原因にもなります。
朝起きて太陽光を見た後に朝食を食べることで、中枢時計と末梢時計がリセットされますが、リセット効果を最大限引き出すためには、十分な「絶食時間」も必要です。絶食時間とは、前日最後の食事(夕食)から翌日最初の食事(朝食)までの時間のこと。夕食~翌日の朝食までは10時間以上空ける、また起床から2時間以内に朝食を摂取しましょう。体内時計をずらすような行動は避け、毎日一定の時間に起きる朝型生活を目指しましょう。
体内時計をずらす NG 行動
・朝の太陽光を浴びない、夜遅くまで強い光(特にブルーライト)を浴びる
・運動不足、深夜の激しい運動
・遅い時間のカフェイン摂取
・寝酒
・就寝前の喫煙
・寝不足
・長時間の昼寝
・その日によって起床時間が一定でない(休日に遅寝遅起きをする)
・年齢相応の睡眠時間以上に寝る*
*10代前半までは8時間以上、25歳は7時間、45歳は6.5時間、65歳は6時間など、睡眠の量は年齢とともに徐々に減っていきます。必要以上に寝ようとすると、かえって睡眠が浅くなり、夜中に目覚めやすくなります。また眠くないのに無理に寝床につくと緊張感を高め、自然な入眠を妨げます。
参考資料:厚生労働省「睡眠対策」
朝食でご飯、パンなどの糖質を摂取すると、血糖値とともにインスリンが上昇しますが、これが体内時計のリセットには有効です。またタンパク質は、エネルギー代謝、筋肉などを作る「体タンパク質」合成の点からも、多めにとるのが合理的です。特に筋肉を増やすために必要な分岐鎖アミノ酸 (BCAA)は、夜より朝に摂取したほうが筋肉量の維持・増加に効果的といわれます。この分岐鎖アミノ酸は、マグロ、カツオ、アジ、サンマ、牛肉、鶏肉、卵、大豆製品、乳製品に多く含まれています。吸収しやすいチーズ、ヨーグルト、納豆など発酵食品もお勧めです。
反対に、夜は玄米や大麦、イモ類や根菜類など、体内時計をなるべくずらさない食材を選びましょう。朝、昼に食事を摂取したときに比べ、夜に食事をとった場合、食後、安静にしていても代謝量が増大する「食事誘発性熱産生」が50%低下します。また脂肪合成を促進する時計遺伝子BMAL1(ビーマルワン)は、夜間に活性化するため、夕食に脂質を多くとると脂肪をため込み、肥満になりやすいといわれています。
このように夜はエネルギー消費が落ちて太りやすいため、栄養量は控えめに。夕食が夜遅くなる場合は、夕方におにぎりなどを食べ、夜は軽めにするなど「分食」をしましょう。また夕食は血糖値が最も上がりやすいので、食べる順番も重要です。野菜、肉・魚、ご飯の順に食べましょう。
朝…リセット効果の高い米・小麦などの糖質とタンパク質(特に分岐鎖アミノ酸)を十分に。その他、脂質代謝改善効果、リセット効果のあるDHA・EPAを含む魚油(ツナ)。ビタミンK(ブロッコリー)、カフェインもリセット効果あり。幸せホルモンであるセロトニン、夜間の睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌をよくするために、材料となるトリプトファン(卵、牛乳、チーズ、バナナ)を朝に摂取する。抗酸化作用でさまざまな疾患の予防効果があるとされるリコピン(トマト)は、1日の活動初期に最も吸収がよくなる朝食で。
昼…夕食時のセカンドミール効果(それ以降の食後血糖値の増加を抑える効果)を得るために、食物繊維を多めに。午後の活動に必要なエネルギーを油で効率良く補給する。高脂肪の食事は昼食に摂取するのがお勧め。
夜…1日の中ではエネルギー消費が落ちており、夜間の血糖値の上昇・脂肪合成を抑える低エネルギー食材を中心にする。食物繊維、レジスタントスターチ(難消化性でんぷん:麦)は多めに。睡眠の質を上げるため、ストレス緩和、疲労感の軽減効果などがあるとされる神経伝達物質・GABA(キムチ、納豆、ナス、ジャガイモ、メロン)がお勧めです。体内時計をなるべくずらさないイモ類などの根茎でんぷんを摂取。
1日3食の血糖値を上げにくい食事で、セカンドミール効果を得よう
1日2食以下では、脂質異常症、糖尿病などのリスクが高まる報告があり、1日3食は必要です。特に朝食をとると、それ以降の食後血糖値の増加が抑えられる「セカンドミール効果」が得られます。ただし「血糖値を上げにくい食事」をすることが重要で、朝食を欠食したり、血糖値を上げやすい食事をした場合は、脂肪がエネルギー源となって遊離脂肪酸が血中に放出され、次の食後の血糖値が上がりやすくなります。そのため朝食では、糖質だけでなく、タンパク質、食物繊維を組み合わせて、急激な血糖値の上昇を防ぎましょう。夕食に対するセカンドミール効果を得るためには、昼食時も同様の考え方をします。
解説:松永 貴子
済生会熊本病院
栄養部給食管理室長兼臨床栄養室係長・管理栄養士
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