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血糖値は、ブドウ糖(グルコース)の血中濃度を指します。
ブドウ糖は体内に取り込まれると、血中でその濃度を変化させます。このブドウ糖の血中濃度の変化(血糖値の変動)は、以下のようなメカニズムになっています。
米やパンなどの穀物に多く含まれる炭水化物(糖質)を食べると、まず口の中で細かく嚙み砕かれながら唾液で分解されます。次に食道・胃を通り、最終的に小腸でブドウ糖に分解、吸収され、血液中に取り込まれます。その結果、血中のブドウ糖濃度が上がります(血糖値の上昇)。
血中のブドウ糖濃度が上がると、膵臓(すいぞう)でインスリンというホルモンが作られ、血管内に分泌されます。インスリンは血液中のブドウ糖を取り込むよう細胞に働きかけます。インスリンの働きを受けて、最初に肝臓でブドウ糖が蓄えられ、残りが筋肉や脂肪などに取り込まれます。これによって血中のブドウ糖濃度が下がります(血糖値の低下)。
このようにインスリンの働きによって血糖値の上昇がおさえられますが、インスリンの分泌量が少なかったり(インスリン分泌不全)、インスリンの働きが悪かったり(インスリン抵抗性)して、血糖値が下がらない状態が慢性的に続くのが糖尿病です。
食前・食後など生活を通して変動する血糖値。通常はこの変動の波がゆるやかですが、食後の血糖値が急上昇と急降下を起こす状態を「血糖値スパイク」といいます。スパイクは「とげ」を意味しますが、血糖値のグラフを見るとまさに「とげ」のような形になっています。
血糖値スパイクは、インスリンの分泌が大きく影響しています。
膵臓(すいぞう)の老化や肥満などによってインスリンを分泌する能力が衰えると、分泌量が減ったり、分泌するタイミングが遅くなったりします。すると、細胞がブドウ糖を取り込むことができず、血糖値の急激な上昇を招きます(食後高血糖)。さらに急上昇した血糖値をおさえるために、後からインスリンが大量に出てしまうと、今度は血糖値の急降下を招きます。
こうした血糖値の乱高下が血管にダメージを与えてしまいます。そうなると動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中による突然死のリスクが高くなると考えられています。
この血糖値スパイク、健康診断で測る空腹時血糖値の数値には現れないためなかなか発見されず、見逃されやすいという側面があります。食後高血糖にもかかわらず、通常の健診では発見されないケースを「隠れ糖尿病」といいますが、健診の数値が正常な人であっても血糖値スパイクが起きている可能性はあるのです。
血糖値スパイクを起こしやすい人の特徴として「炭水化物中心の食事をたくさん食べる」「食べる速度が早い」「運動不足」「血縁者に糖尿病の人がいる」などが挙げられます。
日本の糖尿病患者さんは糖尿病予備軍も含めると約2000万人といわれており、6人に1人の計算です。血糖値スパイクも人ごととせずに、早い段階から予防に取り組みましょう。
実際に血糖値スパイクを起こしやすいかどうかを知るには、自分の血糖値がどのように変動しているかを把握することが大事になります。
そのための方法の一つが、「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」です。血糖値の変動を把握する検査で、糖尿病の診断などに使われます。75gのブドウ糖液を飲み、飲む前・飲んでから30分後・60分後・120分後の計4回採血し、それぞれの血糖値から糖尿病かどうかを調べます。事前の検査で血糖値や後述するHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値から糖尿病が疑われる場合は、医療機関でOGTTを受けることができますので、検査結果を見ながら血糖値スパイクを起こしやすいかどうか医師に相談してみるとよいでしょう。
このほかに、最近では糖尿病患者さん向けの製品として手軽に血糖変動を把握できるものもあります。500円玉くらいの大きさのセンサーを腕に付け、専用のリーダーやスマートフォンをかざしてそのときの皮下組織のブドウ糖濃度(血糖値に近似)を測定するという器具です。インスリン治療を行なっている患者さんのうち、保険診療上の条件を満たすケースでは医療機関で処方されます。また、ネット通販などで自費購入することもできます。
こうした測定器を活用して、食事や運動の前後で自分の血糖値の変化を確認することができます。血糖値スパイクを意識することで、糖尿病の治療や予防に役立てましょう。
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)とは
血糖値を知る手段の一つに、血液検査で分かるHbA1cという数値があります。これは過去1~2カ月間の血糖値の平均を示したもので、直前の食事で値が変わることはありません。ただ、HbA1cでは、血糖値の上がり下がりといった変動までは把握できないというデメリットがあります。
血糖値スパイクを避ける上で大事になるのが「食事」と「運動」です。
食事の際に、よく噛んでゆっくり食べたり、食べる順番を工夫したりすることで、小腸での炭水化物の吸収速度をゆるやかにすることが重要です。タンパク質・脂質・食物繊維を含むおかずと野菜を最初に食べることで、炭水化物の消化吸収がゆるやかになり、急激な血糖上昇を予防することができます。また、朝食を抜いた状態で昼食を食べると、血糖値が一気に上がるので、欠食は避けましょう。
おにぎりやカップラーメンだけといった炭水化物オンリーの食事をやめるだけでも、かなり改善されます。ただ、炭水化物(糖質)は身体にとって必要な栄養素なので、過度に制限するのは好ましくありません。一定の量は摂りつつ、白米をもち麦や五穀米に、パンをライ麦パンに変えるなどの工夫をするのが効果的です。
血糖値の上がりやすさを示す指標「GI(グリセミック・インデックス)」を気にして食品を選ぶのもお勧めです。
血糖値スパイクを防ぐには運動も大切です。個人差はありますが、食後1~2時間後に運動を行なうと食後の血糖値や中性脂肪の値の上昇をゆるやかにすることができます。その際は激しい運動ではなく、階段の上り下りやウォーキング程度で大丈夫。張り切りすぎて運動すると、たくさん食べてしまうなんてこともあるので気を付けましょう。
工夫した食事や適度な運動は、どちらも長く続けることが大切です。健康管理を記録できるアプリなどを上手に活用して、体重や日々の食事・運動を記録することも習慣化に役立ちます。
<血糖値スパイクを予防するコツ>
・よく噛んでゆっくり食べる
・食べる順番は野菜→タンパク質→炭水化物の順
(野菜を最初に食べるべジファーストを心がける)
・朝食をとる(欠食を避ける)
・炭水化物の重ね食いを避ける(ラーメンとチャーハンなどはNG)
・低GI食品を選ぶ
・糖質が含まれたものをたくさん食べる際は、食後しっかりと動く
・運動をする(ウォーキング程度でもOK ※簡単な筋トレを1~2分してウォーキングするとより効果的)
・筋トレをする(痩せ型の人は特にお勧め)
年齢とともに膵臓(すいぞう)が衰えるのは仕方のないことで、インスリンの分泌が遅くなったり、少なくなったりして血糖値スパイクを起こしやすくなります。
しかし、食事と運動の双方で対策を行なっておくことで、健康な身体を維持することが可能です。糖尿病の途中段階ともいえる境界型糖尿病(糖尿病予備軍)は5~8年続くといわれ、その後糖尿病を発症します。糖尿病になる前の段階であれば、対策することで、糖尿病を回避できる可能性が高くなります。
ただ、血糖値スパイク対策とはいえ、好きなものを食べられないなど我慢や制限ばかりでは、長く続けるのは難しいかもしれません。
食後しっかりと動くことで、血糖値の急上昇をおさえることができます。運動をうまく取り入れるなど工夫することで好きなものを食べられます。食べたいものを食べつつ、適度な運動を行なって、血糖値の変動をゆるやかな状態に維持できるといいですね。
解説:利根 淳仁
岡山済生会総合病院
内科・糖尿病センター 副センター長
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