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2013.10.21
膵臓(すいぞう)は胃の裏側に位置している臓器で、血糖をコントロールするインスリンやグルカゴンなどのホルモンを産生したり、いろいろな消化酵素を産生(細胞で物質が合成・生成されること)したりして、私たちが食事を取ると消化酵素を腸の中に分泌し、消化吸収を助ける仕事をしています。
膵臓(すいぞう)から分泌された消化酵素の効果は絶大です。食べた食物が便となって排泄(はいせつ)されるときにはカスだけになり、その原形をとどめていません。しかも、腸の中でのみ消化酵素が働いている限り、私たち自身の内臓が内側から消化されてしまうことはありません。ですが、この当たり前の現象が当たり前でなくなることがあります。
なんらかの原因によって、消化酵素の宝庫である膵臓(すいぞう)の中で消化酵素が働いてしまった場合、膵臓(すいぞう)自体が消化され、溶けてしまいます。ひどい場合は膵臓(すいぞう)の周りまで溶かし、そこで産生された大量の有害物質が血液を介して全身の臓器に及び、命に関わるような炎症を引き起こすこともあります。これが急性すい炎と呼ばれる病気です。
急性膵炎の起こるしくみ
急性すい炎の程度は、気がつかないうちに数日で治ってしまうような軽症のものから、命に関わるような重症のものまであります。2003年の日本国内における調査では、重症に発展するケースが約3割になるという報告がされました。急性膵炎の死亡率は全体で2.9%、重症者では8.9%の割合となっています。重症急性膵炎は「特定疾患治療研究対象疾患」に指定されていますので、認定された場合、基本的に治療費がかかりません。
急性すい炎の主な原因は、アルコールと胆石によるもので、そのほかに薬剤性や脂質異常症、原因不明(特発性)などが挙げられますし、膵(すい)がんが隠れていることもあります。男性における病因は主にアルコール摂取、女性は胆石であったり、特発性が多い傾向にあります。
・胆石のある人の腹痛
・アルコールをたくさん飲んだ後の腹痛
・脂っこい食べ物を食べた後の腹痛
急性膵炎では、ほとんどが腹痛で発症します。程度はさまざまですので、「ちょっと胃が痛かった程度だから」と医療機関を受診しないままの患者さんもいます。しかし、時間が経てば治療に困難を生じることもありますので、注意が必要です。
また、腹痛のほかにお腹を押すと痛い、食欲不振、吐き気・嘔吐(おうと)、発熱、背部痛などが多くみられる症状です。胃潰瘍や胆石発作、急性虫垂炎の初期、尿管結石など、お腹の中で急に発症する多くの病気で似た症状がみられますので鑑別が必要になります。
「もともと胆石を指摘されていた」、「大量のアルコールを飲んだ後にお腹が痛み出した」、「脂っこい食べ物を食べた後に痛み出した」などといったことがあれば、急性膵炎の可能性も考えて、なるべく早く医療機関を受診した方がいいでしょう。
急性膵炎の診断は、血液検査で膵臓(すいぞう)の酵素が上昇していないかや、画像検査で膵臓(すいぞう)の腫れや周りの炎症が起きていないかなどで行います。受診時期が遅れると膵臓(すいぞう)の酵素上昇がはっきりしないことがあり、画像検査でも腹部超音波検査だけでは原因が特定できないこともあるので、より精密に調べるためにCT検査を実施します。
急性膵炎と診断されたら、原則として入院治療が必要です。軽症や中等症の患者さんは、基本的に絶食と点滴治療を行いますが、重症の場合は全身の集中管理が必要で、人工呼吸器や血液浄化などの治療が必要となる場合があります。
・総胆管結石は症状がなくても治療しておきましょう
・暴飲暴食を避けましょう
・アルコール性膵炎が治っても摂生は続けましょう
膵臓(すいぞう)が産生した消化酵素を多く含んだ膵液は、膵臓(すいぞう)の中を走る膵(すい)管を通って腸に分泌されます。例えば、胆石が膵管の出口を圧迫するなどして、膵管内の圧力が上昇すると急性すい炎を起こします。
脂っこい食べ物やアルコールの摂取は、膵(すい)液の分泌を増加させ、やはり膵管内圧を上昇させます。最も、アルコールや薬剤が急性膵炎を起こす原因は、膵臓(すいぞう)の細胞に直接毒性をもたらすためともいわれており、発症のメカニズムがはっきり解明されているわけではありません。
また、脂質異常症の中でも血液中の中性脂肪の値が1,000~2,000mg/dLを超えると、急性すい炎を発症しやすくなります。いずれにしても急性膵炎を予防するには、脂っこいものやアルコールの過剰摂取は避けた方がよいでしょう。
胆石のうちで急性膵炎を起こすのは、総胆管という管に存在する総胆管結石です。胆のうの中にある石である胆のう内結石も小さなものは総胆管に落下して、急性膵炎の原因になります。偶然、健診などで総胆管結石が発見された場合は、症状がなくても治療をしておきましょう。総胆管結石は急性膵炎だけでなく、急性胆管炎やそれによる黄疸、敗血症の発症リスクがあるからです。これは、一般的に内視鏡で治療することが可能です。また、急性膵炎の3~15%が慢性すい炎に移行します。
胆石性膵炎に関しては、胆石の治療をすれば再発を防ぐことができますが、アルコール性膵炎では3割以上の患者さんに再発が認められます。たとえ急性膵炎が治ったとしても、暴飲暴食を避けてバランスのよい食生活を心がけましょう。
解説:國田 哲子
済生会呉病院
副院長
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