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2022.09.28
脂質異常症のうち、他の病気によって二次的に引き起こされるのではなく、体質・遺伝子異常に基づいて発症するものを原発性脂質異常症と呼びます。
血液中の脂質の値が基準値から外れた状態が脂質異常症です。脂質の異常には、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度の異常があります。これらはいずれも、動脈硬化の促進と関連します。
LDLコレステロール | 140mg/dL以上 120~139mg/dL |
高LDLコレステロール血症 境界域高LDLコレステロール血症 |
---|---|---|
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド |
150mg/dL以上(空腹時採決) 175mg/dL以上(随時採決) |
高トリグリセライド血症 |
(「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版」より抜粋)
コレステロールや中性脂肪はそのままでは水(血液)に溶けにくいため、リポタンパク質という球状の粒子となることで血中を流れて組織から組織へ運ばれます。原発性脂質異常症は、このリポタンパク質や血清脂質(血中のコレステロールや中性脂肪)の代謝に異常が生じることで発症します。多くは遺伝子異常によるものですが、環境や生活習慣が発症に影響を与えることもあります。
原発性脂質異常症は以下の病型に分類されます。
原発性高脂血症 | 原発性高カイロミクロン血症 | 家族性リポタンパクリパーゼ(LPL)欠損症 |
---|---|---|
GPIHBP1欠損症 | ||
LMF1欠損症 | ||
アポタンパクA-V欠損症 | ||
アポタンパクC-Ⅱ欠損症 | ||
原発性Ⅴ型高脂血症 | ||
その他 | ||
原発性高コレステロール血症 | 家族性高コレステロール血症 | |
多遺伝子性高コレステロール血症 | ||
家族性複合型高脂血症 | ||
家族性Ⅲ型高脂血症 | アポタンパクE異常症 | |
アポタンパクE欠損症 | ||
原発性高トリグリセライド血症 | 家族性Ⅳ型高脂血症 | |
原発性高HDL-C血症 | CETP欠損症 | |
HL欠損症 | ||
その他 | ||
原発性低脂血症 | 無βリポタンパク血症(MTP異常症) | 無βリポタンパク血症 |
家族性低βリポタンパク血症(FHBL) | 家族性低βリポタンパク血症(FHBL)1(APOB異常症) | |
家族性低βリポタンパク血症(FHBL)2(ANGPTL3異常症) | ||
PCSK9異常症 | ||
家族性低HDL-C血症 | タンジール病 | |
レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症 | ||
アポタンパクA-Ⅰ欠損症 | ||
その他 | シトステロール血症 | |
脳腱黄色腫症 |
(「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版」より抜粋)
原発性脂質異常症の病型のうち、「原発性高コレステロール血症」の家族性高コレステロール血症などは遺伝的な要因が大きく、若年から発症しやすいといわれています。一方、「原発性高コレステロール血症」の家族性複合型高脂血症や「家族性Ⅲ型高脂血症」などの病型は環境による要因が大きく、成人以降に発症すると考えられています。
なお、原発性脂質異常症の患者さんの割合は、すべての病型を合わせて100人に1~2人程度とされています。
遺伝子異常が主な原因である原発性脂質異常症に対して、肥満や生活習慣、基礎疾患や薬の使用などが原因となる脂質異常症を「続発性脂質異常症」と呼びます。
多くの場合、脂質異常症に症状はありませんが、長引くと動脈硬化症を引き起こします。それによって狭心症や脳梗塞などの合併症の危険性が増していきます。
原発性脂質異常症の病型別にみると、「原発性高カイロミクロン血症」の場合、血中の中性脂肪の値が2000mg/dLを超えると急性すい炎の発症リスクが高まります。
家族性高コレステロール血症の場合、アキレス腱の肥厚(腫れて厚くなること)、結節性黄色腫(小さく黄色いこぶができること)、角膜輪(かくまくりん=黒目の周囲に白い輪ができること)などがみられます。若い人には、動脈の内膜に粥(かゆ)状の病変ができる粥状動脈硬化症が起こりやすく、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が生じるリスクが高まります。性ホルモンなどの影響から、動脈硬化発症のリスクは女性の方が低いといわれています。
頻度は低いですが、脂質が基準値より低値となる原発性低脂血症では、発育不全や脂肪肝が問題となることがあります。
家族や親族の病歴(家族歴)の確認や血液検査が重要です。それ以外に、超音波検査などの血管の画像診断によって動脈硬化の状態を評価したり、遺伝子検査(保険適用外)を行なったりすることもあります。
摂取エネルギーの適正化や栄養バランスを考えるなどの食事療法に加え、運動療法も病気の改善に効果が期待できます。効果が十分にみられない場合は、コレステロール値や中性脂肪値を下げるための薬物療法を行なうこともあります。
また、家族性高コレステロール血症では、血中のLDLコレステロールを直接除去する治療を行なうこともあります。
脂質異常症は自覚症状がないことがほとんどです。健診などで定期的に血液検査を受けることが早期発見のためには大切になります。
脂質異常症やその合併症である狭心症、脳梗塞などを(特に若いときに)発症した人が家族や親族にいる場合、原発性脂質異常症になりやすい体質の可能性があるため、定期健診をきちんと受けるようにしましょう。
原発性脂質異常症は遺伝や体質による影響が強いですが、動脈硬化を進行させないためにはバランスのよい食事と適度な運動、禁煙、肥満を避けることと、定期的に受診し必要に応じて適切な薬物治療を継続していくことが重要です。
解説:新谷 光世
中津病院
糖尿病内分泌内科 部長
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