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2024.07.24
急性脳炎は脳に起こった炎症によって、発熱・頭痛・意識障害・けいれんなどの急性症状がみられる病気の総称です。なお、脳炎に似ている症状があるにもかかわらず、脳自体に炎症がみられない場合は脳炎ではなく脳症に分類されます。
脳炎には、ウイルス・細菌・真菌(カビ)・原虫・寄生虫などの病原体が脳に侵入して増殖し、組織障害を引き起こす「感染性脳炎」と、全身性エリテマトーデスなどの膠原病や、脳以外の場所にできた腫瘍に対する免疫反応が、誤って自身の神経系にも障害を与えてしまうことで起こる「非感染性脳炎」があります。
発熱や咳、鼻汁、咽頭痛などの風邪症状(感冒)のような症状の後、意識障害、けいれん、急性の認知機能障害や性格変化、精神症状、神経局所症状(麻痺や失語症など)、本人の意思とは関係なく身体が動く不随意運動などが現れます。
がんなどの病気の確定診断では、一般的に患者さんから採取した組織や細胞を検査する病理学的検査を行ないます。脳炎では脳の組織の採取が必要ですが、機能障害を起こす可能性があるため、生前に行なわれることはあまりありません。そのため、細胞数・タンパク量の変化を調べる脳脊髄液検査や、CT・MRIなどの神経画像検査で異常がないか調べる方法が脳炎の診断代用マーカーとして利用されます。
しかし、異常所見がみられなかったとしても脳炎を完全に否定できるわけではありません。「感染性脳炎」では、血液検査で特定のウイルスに対する抗体の特異性を調べる各種ウイルス抗体価の測定、血液や脳脊髄液の培養検査(菌を増殖し病気の原因となる菌に効く薬を調べる検査)、脳脊髄液のPCR検査などで、病原体の検索を行ないます。「非感染性脳炎」では、膠原病・膠原病類縁疾患に関係する自己抗体の検索や、腫瘍の検索、関連する自己抗体の検索を行ないます。
また、脳炎の診断基準は、2013年に「国際脳炎コンソーシアム」で提唱されています。診断基準の主要項目として「24時間以上持続する精神状態の変化(覚醒低下、意識変化や人格変化)を認め、ほかの原因を鑑別できる」が挙げられています。
副項目は以下のとおりです。3項目以上を当てはまる場合は脳炎と診断されます。
(1)受診前あるいは後72時間以内に38度以上の発熱
(2)新しく発症した神経局所症状(運動麻痺や感覚障害、失語症などの局所巣症状)
(3)新しく現れたけいれん発作
(4)脳脊髄液の細胞増多
(5)脳MRI検査で脳炎と考えられる異常
(6)脳波異常
治療法は脳炎の原因によって異なります。
「感染性脳炎」では、感染している病原体に対して抗ウイルス薬や抗生物質などを投与しますが、病原体の特定を待ってからでは治療の開始が遅れてしまい、重篤な後遺症や死に至る可能性があります。ウイルス感染に対しては、頻度が多く抗ウイルス薬のある単純ヘルペスを想定して抗ウイルス薬を用い、また、細菌感染の場合は、重篤な経過をたどるために、原因菌が不明の段階では広範囲に効く抗菌薬を用いる経験的治療を行ないます。
「非感染性脳炎」では、免疫反応をおさえる副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤などの投与、病気の原因物質を含む血漿と正常な血漿を置き換える血漿交換療法を行ないます。腫瘍が関連する場合は、外科手術などで腫瘍を取り除く治療も検討されます。
精神状態の変化を気にかけ、発熱や新たに麻痺・けいれんなどの症状がみられた場合には、速やかに医療機関を受診してください。
感染性脳炎の原因となる感染症を完全に防ぐことは難しいですが、脳炎を引き起こすウイルスの中で、日本脳炎・麻疹・風疹などワクチンがあるものについては、予防接種を受けることをお勧めします。
また、ダニ媒介脳炎を予防するために、草むらや山に入る場合は長袖・長ズボンの着用して肌を露出しないようにしたり、忌避剤(きひざい)を適切に使用したりするなど、刺されないようにすることが大切です。
解説:林 貴士
小樽病院
脳神経内科部長
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