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2015.12.21
脳内に白血球が入り込んで炎症を起こし、脳が障害される病気です。ウイルス、細菌、真菌(カビ)、寄生虫といった病原体が脳に感染して起こる「感染性脳炎」と、自己免疫によって起こる「自己免疫性(免疫介在性)脳炎」とがあります。
感染性脳炎のうち、原因が判明した急性ウイルス性脳炎の60%が単純ヘルペスウイルスによって引き起こされています(単純ヘルペス脳炎)。ヘルペスは口唇周囲や外陰部に水疱ができるものです。単純ヘルペス脳炎は、現在でも死亡率が10%、過半数が記憶障害や高次脳機能障害などの後遺症のために社会復帰が困難となる重い病気であり、早期に治療を開始する必要があります。
一方、自己免疫性脳炎とは、病原体はいないのに白血球が脳組織を破壊してしまう脳炎です。ウイルス感染やワクチン接種、癌に伴う免疫反応により脳炎が引き起こされることもあります。
主な症状は、頭痛、発熱、意識障害、けいれんですが、異常な言動や麻痺が起こることもあります。急性に発病することが多い病気ですが、月や年単位で悪化する場合もあります。
頭部MRIにより脳病変を検出します。
単純ヘルペス脳炎では、下の画像のように前頭葉の底面や側頭葉の内側に異常がみられます。
単純ヘルペス脳炎の頭部MRI
脳に炎症が起きているかどうか、および病原体を調べるために、腰椎穿刺(せんし/針を刺し、体内の液体を採取すること)による脳脊髄液検査で、脳脊髄液中の細胞数の増加や蛋白の上昇を確認します。また、遺伝子を増幅するPCR法で脳脊随液中のウイルス遺伝子を検出する方法もあります。これで陽性となれば診断が確実になりますが、検査の時期や治療の影響で検出できない場合もあります。
けいれんを起こしている際には、脳波検査でてんかん性異常を認めることがあります。
自己免疫性脳炎が疑われる場合は、血液中に神経細胞の成分に対する抗体を検出できることがあります。若い女性に多い卵巣奇形腫を伴う急性非ヘルペス性脳炎では、抗NMDA受容体抗体が陽性になります。
感染性脳炎の中で最も多い単純ヘルペス脳炎には、アシクロビルを点滴します。アシクロビルが効かない場合にはビダラビンを使います。自己免疫性脳炎には副腎皮質ステロイド剤、免疫抑制剤、免疫グロブリン静注療法、血漿(けっしょう)交換療法などが行われます。けいれんに対しては抗けいれん薬が使われます。腫瘍に伴う自己免疫性脳炎では、可能であれば腫瘍切除を行います。
頭痛、発熱に続いてぼんやりしている、眠りがち、呼びかけに反応がないといった意識障害があれば、脳炎を疑って専門医(神経内科)を受診してください。不安、抑うつ、幻覚、妄想、錯乱などの統合失調症に類似した精神症状が急激に出現し、精神疾患と間違われる場合もありますが、経過をみて、意識障害の悪化・けいれんが起これば、脳炎が考えられます。
脳炎の中でも、日本脳炎ウイルスにより引き起こされる日本脳炎については、予防接種がすすめられます。国立感染症研究所発表の発生動向調査報告によると、日本脳炎の発生数は年間10人以下となっていますが、死亡率は20~40%で、精神神経学的後遺症は生存者の45~70%に残り、小児では特に重度の障害を残すことが多いとされています。さらに、患者は予防接種を受けていなかったことが判明しています。
また、麻疹(はしか)や風疹、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)に脳炎を合併することもあり、これらの病気の予防接種も推奨されます。きわめてまれですが、麻疹ウイルス感染から5~10年後の学童期に発病する亜急性硬化性全脳炎は、数年で寝たきりになる重い病気です。
後遺症を防ぐためにも、治療可能な脳炎は速やかに専門医を受診し治療を受けることが大切です。
解説:山田 猛
福岡総合病院
神経内科 脳・血管内科主任部長
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