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2023.09.20
失語症は言語障害の一種で、「話す」「聞く」「読む」「書く」などの言語機能が損なわれ、それらがうまくできなくなった状態です。「失」という文字が表すとおり、一度獲得した言語機能を失うことであり、後天的に生じた脳の障害によって起こります。
失語症の原因として最も多いのは脳卒中(脳血管障害)で、ほかにも脳腫瘍や頭部外傷、脳炎などさまざまな病気で起こります。
通常誰かと会話をするときは、耳で相手の声を聞き、いわれたことを理解し、それに対する返答を考え、口と喉を使って発声します。これらの活動の中で、失語症は大脳にある言語領域が障害されることで起こる言語機能障害であり、耳や喉の問題で会話が成立しない場合などは失語症には当てはまりません。
ほとんどの人は言語中枢が左脳に存在しているため、失語症は左脳の障害で起こることが多いです。脳の中で言語に関するはたらきを担う部位はいろいろあり、障害された部位によって失語症の種類も変わってきます。
失語症にはかなり細かく複雑な種類が存在しますが、代表的な四つの失語について説明します。
① 感覚性失語
側頭葉のウェルニッケ野の障害によって起こります。
ウェルニッケ野が障害されると、話されている言語や書かれている言語の理解が困難になります。音は聞こえるものの、何をいわれているのか理解できなくなります。言葉は流暢に話せますが、いい間違えや錯語が多くみられます。
錯語とは「えほん→うほん」「めがね→めげね」といった発音する音の間違え(音韻性錯語)や、「いぬ→ねこ」「あそぶ→はしる」といった意味の間違え(意味性錯語)などの症状を指します。
感覚性失語の場合、いい間違えに気づかず、多弁な傾向にあります。
② 運動性失語
前頭葉のブローカ野の障害によって起こります。
ブローカ野が障害されると、話されている言語を理解することはでき、どのようなことを返事したいかは頭に浮かびますが、自分の話したいことを言葉にすることができません。発語はあまり流暢でなく、喋るリズムや強弱が不正確になり、音韻性錯語もみられます。
また、相手がいったことを真似する復唱が困難になります。読むことに関しては、平仮名より漢字の方が理解しやすい傾向にあります。
③ 伝導性失語
頭頂葉下部の障害によって起こります。
基本的には流暢な話し方で、聞いたことに対する理解は保たれています。音韻性錯語が目立ち、間違いに気づいて何度もいい直しをしようとします。相手のいったことを真似する復唱も困難になります。
④ 全失語
脳の広範な障害によって起こります。
「話す」「聞く」「読む」「書く」などすべての言語機能が重度に損なわれ、コミュニケーションを取ることが非常に難しくなります。身振り手振りなどを用いた非言語での表現方法を選択する傾向にあります。
失語症になると、次のような症状が現れます。
・いいたい言葉が出てこない
・返答として適切でない、関係のない言葉を発してしまう
・いわれたことが理解できない
・文字や文章が読めない、書けない
検査では主に「標準失語症検査(SLTA)」「WAB失語症検査(日本版)」が使われています。
標準失語症検査(SLTA)は、26項目の検査で構成されており、話す・聞く・読む・書く・計算を6段階で評価します。失語症の有無、重症度、種類などの診断ができます。
WAB失語症検査(日本版)は、自発話、話し言葉の理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、構成の8項目で検査します。検査得点から失語症の種類を調べることが可能です。重症度を示す失語指数を算定できるため、失語症の回復や増悪を評価しやすいといわれています。
失語症の原因となった病気や障害を治療します。また、コミュニケーションが取れる状態を目指して、言語聴覚士の指導のもと言語療法などのリハビリテーションを行なうこともあります。
ただ、先述の4種類の失語症のほかにもさまざまな失語症があり、同じ失語症でも脳の障害の程度で重症度も変わってきます。リハビリテーションによってどの程度回復が期待できるかも患者さんの年齢や原因となる病気によって変わってきます。
失語症は大脳の障害で起こる言語機能障害です。医学解説「失語症の症状」の項で挙げた症状がみられたら、すぐに病院を受診しましょう。早期の発見・治療を行なうことで、回復までの期間の短縮も期待できます。
解説:中島 慎治
日田病院
脳神経外科 部長
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