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2014.03.26
甲状腺クリーゼは、日本内分泌学会によって2009年に実施された全国疫学調査結果に基づいて診断基準が改訂され、「甲状腺クリーゼの診断基準」の第2版が発表されました。それによると、甲状腺ホルモンが多量に分泌されることで全身の代謝が高まる甲状腺機能亢進症の患者さんで、未治療もしくは甲状腺ホルモンのコントロールが不良な方に、なんらかの強いストレスが加わった際に発症するとされています。甲状腺ホルモンが過剰に作用し、複数の臓器が機能不全に陥り生命の危機に直面するため、緊急治療が必要になります。
具体的には以下の症状が現れます。
1 中枢神経症状:不穏(大きな声で叫んだり、暴力をふるったりしやすい状態)、せん妄(話す言葉やふるまいに一時的に混乱が見られる状態)、精神異常、傾眠(けいみん/周囲からの刺激があれば覚醒するが、すぐに意識が混濁する状態)、痙攣、昏睡
2 38℃以上の発熱
3 1分間に130回以上の頻脈(甲状腺機能亢進症では1分間に100回以上が多い)
4 心不全症状:肺水腫(血液の液体成分が血管の外へ滲み出していること)、肺野の50%以上の湿性ラ音(肺の異常音)、心原生ショック(急激に心臓の働きが低下し、全身の臓器の働きが低下すること)
血液検査で甲状腺ホルモンの「FT3」と「FT4」の少なくともどちらか一方が高い値を示し、動悸や息切れなど甲状腺中毒症の症状が現れるのに加えて、上記の1と2~5が1つ以上、もしくは2~5で3つ以上当てはまる場合は、甲状腺クリーゼと確定されます。
甲状腺クリーゼは、このように細かく定義が決められています。診断基準に照らし合わせると、発症頻度は国内で150人以上、致死率は10%以上です。発症頻度は少ないですが、発症すると生命の危機に陥る非常に重い症状です。
未治療もしくは甲状腺ホルモンのコントロールが不良な甲状腺機能亢進症の方が発症します。
発症の原因は感染、外傷、甲状腺手術、塞栓症、糖尿病ケトアシドーシス(高血糖の症状に加え、脱水・意識障害・昏睡やショックなどの症状を合併する症状)、ストレス、脳血管障害、妊娠中毒などとされていますが、発症した患者さんのうち、3分の1は原因不明です。原因の中で最も多いのは感染症とされています。また、甲状腺機能亢進症の治療中で、抗甲状腺剤の内服を中止することも、甲状腺クリーゼを発症する要因となります。
甲状腺ホルモンの影響を最も受けやすいのは、血管や心臓などの循環器です。甲状腺中毒症が重症化するのに伴い、頻脈や不整脈が出現し、心臓や血液循環の働きが悪化して心不全に至り、生命に影響を与えます。
甲状腺クリーゼの特徴は、頻脈の程度が高いことと、心房細動などの不整脈が合併している例が多いことなどです。心エコーで心不全の有無、BNP検査(血液検査)で心不全の重症度、胸部X線やCTで心拡大(心臓が大きくなること)、胸水(肺に多量の水がたまっていること)、肺水腫などをチェックしてもらうことが、早期発見につながると考えられます。
甲状腺機能亢進症の代表的な病気であるバセドウ病では、微熱が出ることはありますが、通常38℃を超えるような発熱はみられません。バセドウ病の患者さんで、38℃以上の発熱がある時は、甲状腺クリーゼの可能性を念頭に入れる必要があります。
外科の立場からお話しすると、甲状腺クリーゼは甲状腺機能亢進症の手術後に起こる合併症の一つに挙げられています。しかし、近年術後に甲状腺クリーゼを発症する患者さんはまれになっています。手術の際は、甲状腺機能亢進症の基本的な術前管理として、内分泌内科で甲状腺機能の正常化を図ります。抗甲状腺剤を服用しても甲状腺ホルモンの分泌をうまくコントロールできない場合や、副作用で服薬が困難な場合でも、「ヨード剤」「β遮断剤」「副腎皮質ホルモン」などで甲状腺機能を調整します。この術前管理が最も重要です。ちなみに以前の術後管理では、部屋の明かりを落として、静かな環境下での管理が奨励されていたかもしれませんが、現在は特にこの点を強く意識していません。
また、甲状腺機能亢進症と診断され、内科で甲状腺ホルモンの分泌をコントロール中の患者さんは、感染などをきっかけとして、甲状腺クリーゼが発症する場合があることを覚えておきましょう。また、抗甲状腺剤の内服を自己判断で中止したり、薬を飲むことを忘れないよう注意しましょう。
未治療の方への予防方法はないに等しいですが、甲状腺クリーゼに関して知識を持っておくことが一つの手段だと考えます。
解説:久野 博
済生会長崎病院
外科主任部長
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