社会福祉法人 恩賜財団 済生会(しゃかいふくしほうじん おんしざいだん さいせいかい)

2020.06.03

甲状腺がん

thyroid cancer

松野 剛 (今治病院 今治病院 院長)

甲状腺がんはこんな病気

甲状腺は前頸部(ぜんけいぶ=首の前側)の“のど仏”のすぐ下にあり、気管を取り巻くように、蝶の形をした1020gの小さな内分泌臓器です。甲状腺の働きとしては発育、代謝のために必要なホルモンの合成、分泌がありますが、それを作るのが濾胞細胞(ろほうさいぼう)と傍濾胞細胞(ぼうろほうさいぼう)です。濾胞細胞で作られる甲状腺ホルモンは、基礎代謝の亢進(こうしん:活性化)や身体の成長を促進し、傍濾胞細胞が分泌するカルシトニン(ホルモンの一種)は、血中のカルシウム濃度を調整する(下げる)働きがあります。


甲状腺がんはがん罹患者全体の1%くらいで、1年に診断される数が人口10万人当たり12.3人(男6.8人、女17.4)です。女性に多く、年齢では30歳から増え、70歳代に最も多いとされています。特に2030歳代の若い女性では主ながんの一つです。

甲状腺がんの症状

前頸部のしこり、呼吸困難、嗄声(させい)と呼ばれる声のかすれ、物が飲み込みにくくなったり、むせたりする嚥下障害(えんげしょうがい)などの症状がみられます。

甲状腺がんの分類

分類としては、乳頭がん、濾胞がん、未分化がん、髄様(ずいよう)がん、があります。このうち全体の80%以上を占める乳頭がんは、若い女性に多く、近くのリンパ節に転移することがあります。濾胞がんは全体の10%程度ですが、良性の濾胞腺腫(腫瘍)との鑑別が難しく、血液の流れに乗って肺や骨などに転移(血行性転移)することもあります。ただし以上の二つは比較的予後が良好で、治る確率が高い分化がんと呼ばれます。一方、頻度は低いながらも細胞の成熟度が低い未分化がんは、細胞の増殖が活発なため最も悪性度が高く、急速にがんが増大し、周りの組織にも広がっていきます。また呼吸困難や嚥下障害を引き起こし、転移することも多く予後も不良です。

甲状腺がんの診断

しこりの状態の確認には、甲状腺超音波(エコー)検査やCT検査が用いられます。これらの検査で甲状腺がんが疑われた場合は、甲状腺に注射針を刺して細胞を吸い取る穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)や針生検(組織診)での病理診断を行ない、がんかどうかを判断します。

甲状腺がんの治療

がんと診断されたり、疑わしい場合、唯一の治療法は手術です。日本ではほとんどの場合、左右どちらかの腺葉(せんよう)を摘出する葉切除術(ようせつじょじゅつ)か、約2/3以上の甲状腺を摘出する甲状腺亜全摘術と周囲のリンパ節を摘出するリンパ節郭清(かくせい)を行ないます。

手術のポイントは発声に関係する反回神経の温存で、これを傷つけると声がれや嚥下障害が起こります。乳頭がんと濾胞がんの術後の成績はよく、5年生存率は95%程度と報告されています。術後には甲状腺機能の低下に対する甲状腺ホルモン製剤による治療と、術後10年ほどの経過観察を行ない、再発の有無をみていく必要があります。

一方、分化型甲状腺がん(分化がん)で切除不能または再発の場合、かつては放射線ヨードのカプセルを飲んで身体の中からがんを照射・除去する「放射性ヨード内照射」が唯一の治療法でした。最近になり分子標的薬(がんの発生・増殖に関わる特定の分子だけに作用する薬)による治療が有効とされ、保険診療でも使えるようになりました。

初期はしこり以外にあまり目立った症状がなく、声がかすれたり、多少飲み込みが悪い程度で気付かないことがあります。しかし無症状の場合でも、画像検査で発見されることもあるので、心配な人は健診での甲状腺エコー(超音波)検査をお勧めします。

なお、高齢者に見つかる小さな甲状腺がんの多くは、ほとんど大きくなることもないため、手術などは行なわず、定期的な検査などで慎重に経過観察することもあります。

甲状腺がん発生の原因には、放射線被ばくや海藻に多く含まれるヨード(ヨウ素)の不足が考えられています。予防法で確かなものはありませんが、現時点ではヨード不足にならないような食生活を心がけましょう。

松野 剛

松野 剛
済生会今治病院
院長


※所属・役職は本ページ公開当時のものです。異動等により変わる場合もありますので、ご了承ください。

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