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2013.09.17
心臓は1年におよそ1億回、体の隅々に血液を送り出すポンプの仕事をしています。このポンプが、脳・腎臓・肝臓等の臓器に十分な血液や栄養を送ることができなくなる状況が「心不全」です。これは心臓弁膜症、心筋梗塞、心筋症などのような心臓の病名ではなく、それに伴う症状を示すものです。病気が進行すると、動悸や息切れを感じるようになり、足や瞼(まぶた)の浮腫、肝臓の大きさが正常な範囲を超えて拡大する肝腫大や心拡大等が現れる場合に心不全と呼びます。さらにこの状態が長期間にわたって起こり、次第に進行するときの状態を「慢性心不全」といいます。
慢性心不全はすべての心疾患の終末的な病態で、生命予後(手術後などの、生命が維持できるかどうかについての予測)は極めてよくありません。今までは急性心不全と同様に、心臓の検査やうっ血の有無で診断し、評価されていました。しかし近年の病態解析の進歩により、慢性心不全では神経内分泌系因子が著しく亢進(こうしん/病状が進むこと)し、病態を悪化させることが分かりました。その結果、慢性心不全は種々の神経内分泌因子が複雑に関連し合った、一つの症候群(症状の集まり)と考えられるようになりました。
また、最近は心筋の収縮性は比較的保たれていても、心室拡張性の低下により心不全症状が出現するという考え方も出てきました。慢性の圧負荷や神経体液因子の亢進により生じる心肥大や心拡大、心筋線維化、心内膜下虚血、心筋細胞内カルシウム動態の異常などが拡張障害の大きな要因といわれていますが、まだその病態の詳細は不明です。慢性心不全の概念は医学の進歩とともに変遷し、概念も変化していくようです。
下図は高齢の女性の胸部を写したレントゲン写真で、心臓弁膜症のために慢性心不全が増悪した患者さんのものです。心臓が拡大し、肺がむくんで胸水がたまっている状態です。
症例のレントゲン
慢性心不全になると、心臓だけではなく、息切れや脱力感など全身にさまざまな症状が強く起こり、日常生活に支障が生じてきます。代表的な症状は、動悸・動作時の息切れ・呼吸困難・体のむくみ・体重増加などです。さらに悪化すれば、夜間に急に息が苦しくなって目が覚めたり、じっとしていても息が切れることもあります。このような症状の出現により、日常生活が著しく障害されます。また危険な不整脈の出現も高頻度にみられ、突然死の頻度も高いといわれます。
症状・身体所見から慢性心不全が疑われる場合は、採血・検尿・心電図・胸部X線写真等を行ないます。心電図で不整脈や心臓を養う血管の血流不良(心筋虚血)を、胸部X線写真で肺うっ血や胸水の有無、心陰影の大きさや形を確認します。呼吸器疾患を否定するためには、肺機能検査が役立ちます。
心不全の予防法として、基本的に食事療法・運動療法・禁煙・減酒を行なうことはいうまでもありませんが、指示通り薬を服用することが大切です。服薬の中断は増悪(ぞうあく/病状などがさらに悪化すること)の原因の一つであり、服薬を守ることは治療成功のカギとなります。また、症状悪化の前触れがあれば、早めに主治医に相談しましょう。その症状とは、“息切れがする”、“呼吸が苦しい”、“胸が苦しい”、“動悸がする”、“尿が少ない”、“足がむくむ”、“食欲不振や吐き気”、“腹部膨満感”などが主なものです。
このほかに毎日の体重測定(毎朝、排尿後)は重要であり、短期間での体重増加は体液貯留を見る上で有用です。日単位で体重が2kg以上増加するような場合は、急性増悪が考えられますので注意が必要です。増悪が疑われた場合は、無理をせず食塩制限を厳しくするとともに速やかに受診しましょう。高齢患者は浮腫などの症状に気づきにくいので、家族あるいは介護者による注意が必要です。
A) 軽症心不全では厳格なナトリウム制限は不要で、1日およそ7g以下程度の減塩食とします。高齢者は過度のナトリウム制限が食欲を低下させ栄養不良となるため、味付けには適宜調節が必要です。肥満があれば、減量のためのカロリー制限が必要です。
B) 航空機旅行、高地あるいは高温多湿な地域への旅行においては注意が必要です。一般的には、短時間の航空機旅行は他の交通機関による旅行よりも好ましいといえます。しかし、長時間の航空機旅行は重度の心不全では増悪のリスクが高く、お勧めできません。どうしても航空機旅行が必要な場合には、飲水量の調節や利尿薬の適宜使用と軽い体操が必要です。
C) すべての心不全患者さん、特に重症の方は病因によらずインフルエンザに対するワクチンを受けることが望ましいです。
D) 喫煙はあらゆる心疾患の危険因子であり、心不全患者においては禁煙により、死亡率や再入院率が減るといわれています。アルコール性心筋症が疑われる場合は禁酒が不可欠ですが、そうでない方も適切な飲酒習慣に努め、大量飲酒を避けることが必要です。
E) 浮腫のある急性増悪時には運動は行なわず、活動を制限し、安静にすることが必要です。しかしながら、治療によって状態の安定した慢性心不全時は、安静は運動に耐える力を低下させるとともに労作時の疲れやすさが出やすくなり、呼吸困難等の症状を悪化させます。その上、下肢の筋力やバランス機能が低下し、歩行や階段昇降などの移動動作が制限され、容易に転倒しやすくなります。その結果、排泄(はいせつ)行動のほか家事や社会活動など、患者の日常生活全般に影響を及ぼします。
F) 慢性心不全患者であっても、適切な入浴法を用いることでむしろ負荷の軽減効果があり、症状が改善します。熱いお湯のお風呂は交感神経を緊張させるためよくありません。また深く湯につかると心臓に負担がかかるので、温度は40~41℃とし、鎖骨下までの深さの半座位浴で時間は10分以内がよいとされます。
参考
慢性心不全治療ガイドライン(2010年)
解説:三木 秀生
済生会湯田温泉病院
内科部長
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