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2014.05.14
COPD(chronic obstructive pulmonary disease)は、主に長期の喫煙が原因として起こる肺の慢性的な炎症性疾患であり、最近では「肺の生活習慣病」とも言われています。タバコの煙などに含まれる有害物質に肺が慢性的にさらされることによって、空気の通り道である気道、あるいはその先の肺胞と呼ばれる部位に炎症が引き起こされて肺の構造が変化し、せきや痰、息切れなどさまざまな症状が現れます。通常はゆっくりと進行することが多く、特に禁煙後でも肺の炎症が長期間持続することが分かっており、症状が悪化することがあるため注意が必要です。
COPDはまだ聞き慣れない病名かもしれませんが、患者さんの数は世界的に増加の傾向にあります。WHO(世界保健機構)の試算によれば、2020年には虚血性心疾患、脳血管障害に次いで、全世界での死亡原因の第3位にまで上昇すると予想されています。中高年になると発症することから、喫煙や加齢に伴って生じる他の併存症を認めることも多く、虚血性心疾患や糖尿病、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、睡眠障害、緑内障、抑うつなどの合併が知られています。これらを発症している場合に、COPDが潜んでいないかを調べ、早期の診断に努めることが重要となっています。また、COPDでは肺がんや気胸、間質性肺炎、肺高血圧症などの発症にもつながる可能性があるので、慎重な経過観察が必要となります。
COPDは、「スパイロメトリー」と呼ばれる肺機能検査により、慢性的な炎症に伴う気流閉塞(空気の通り道である気管・気管支が狭くなり、息を素早く吐き出せなくなること)を生じているかどうかで診断されます。また、気管支喘息や呼吸器感染症、心不全といったさまざまな疾患で、COPDと同様の症状・所見がみられるため、痰の検査、血液検査、胸部X線・CT検査、心電図・心エコー検査などを行って、それらの疾患ではないことを確認することも重要となります。
COPDは、肺機能検査における気流閉塞の程度により、I期からIV期まで分類されます。さらに、実際の症状の程度も加味して重症度を判定した上で、適切な治療が選択されます。発症と進行具合に喫煙が影響するので、禁煙は必須です。薬物療法としては、まずは「気管支拡張薬」を主とした治療により、症状の改善や進行の抑制を図ります。中等症以上で悪化を繰り返す場合には「吸入ステロイド薬」などを併用します。非薬物療法では、運動療法や栄養療法が行われるほか、呼吸不全がある場合には酸素療法が行われます。また、感染症の併発は病状の進行に大きく影響を与えるため、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種も推奨されています。
せきや痰が続くときは?-COPDを疑うサイン-
慢性的なせきや痰、息をするとヒューヒュー、ゼーゼーと音がすることは、COPDを疑う一つのきっかけとなります。階段や平地を歩くときや、重い物を持ったときに息切れを感じる場合にも、COPDである可能性が疑われます。そのような症状が気になるときは、かかりつけの医師に相談するか、呼吸器の専門科外来で詳しく診てもらうようにしてください。
早期発見のために検査の受診を
軽症では必ずしも自覚症状を伴わない場合があります。COPDは全身性の炎症性疾患(身体中のどこにでも炎症を起こすこと)で併存症が多いので、虚血性心疾患や糖尿病、骨粗鬆症、睡眠障害、緑内障、抑うつなどにかかっており、およそ10年間以上の喫煙歴がある方は、COPDの有無を調べるために肺機能検査を受けることをお勧めします。
また、健康診断や人間ドックの際に肺機能検査を追加して受けることでも、早期発見につなげられる可能性があります。
日本では、COPDを発症した患者さんの約90%に喫煙歴があり、タバコの煙を慢性的に吸っていることが、発症に強く関わっていると考えられています。喫煙以外の原因には、大気汚染物質や職業上の粉じん、化学物質(刺激性の蒸気や煙)などがあります。COPDの発病率は、喫煙者全体の10~15%と報告されており、加齢や喫煙本数の増加に伴ってリスクが上昇することが知られています。発症しやすい喫煙者には何らかの遺伝子的な要因があると考えられていますが、国内では極めてまれである「α1-アンチトリプシン欠損症」という疾患でみられる遺伝子異常を除いては、詳しい関連が明らかになっていません。そのため、いわゆる発症の予測マーカー(目安)となり得るものは今のところありません。そこで、COPDの予防を考えるならば、まず最大の危険因子である喫煙をやめることが一番の対策となります。現在、禁煙治療は一定の条件のもとであれば保険診療も可能となっているので、自己管理での禁煙が困難な場合は、禁煙治療を行っている医療機関を受診するとよいでしょう。同じように、副流煙を吸い続けることもCOPD発症の危険因子とされていますので、受動喫煙を避ける工夫をする必要があります。
解説:上石 修史
宇都宮病院
呼吸器内科
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