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中国・武漢から始まった新型コロナ肺炎の爆発的流行に対して、最初の緊急事態宣言が4月7日に出てから約ひと月半。自粛のおかげか、新規発生数も下火になり、5月25日にはついに全国的に宣言解除となりました。宣言発出中は、街も閑散として車もずいぶん減り運転もしやすかったのですが、先日交差点で止まっていると、前の車の窓からポワーッと白い煙が……。
タバコの煙だとすぐ分かったのですが、この男性はマスクをしていました。肺の中に異物を吸い込ませない効果があるマスクをしながら、一方で積極的に異物であるタバコの煙を吸い込む行為は、あきらかに矛盾しています。と同時に、皆がさまざまな我慢を重ね、医療崩壊を心配しながら働いているのに、こんなときぐらいタバコをやめたらどうだと少し腹立たしくなったものです。
そんなこともあり、新型コロナ肺炎と喫煙について考えてみました。
もともと、タバコの害は長い間、さまざまな形で指摘されてきました。特に肺がんと喫煙率との関連が公衆衛生学的に明らかになると、各国でもその対策が進んできました。かく言う私も、タバコの害を知りながらも、昔は明確なエビデンスもなかったこともあり、20歳から15年ほど、週に二箱程度吸っていました。しかし、タバコの害は肺がんだけでなく他の臓器がん、さらに心血管系にも悪い影響を及ぼし、しかもそばにいる人の健康までも害することを知ってやめました。最も大きなきっかけは気胸の手術で、これを機に完全に禁煙しました。
タバコの煙には、さまざまな有害物質が含まれています。こうした異物は痰や咳として吐き出されるのですが、残った異物は炎症の原因となり、ガス交換に携わる肺胞を傷めていきます。これが長期にわたるとがんを引き起こしたり、肺の働きを弱らせたりします。
チューブを鼻につけ、ボンベを引っ張って歩いている人を時々見かけますが、こうしたCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者さんの95%は長期間の喫煙が原因です。酸素を体内にうまく取り込めないので動くとすぐに息が上がり、少しずつ窒息していくようなつらさがあるといいます。
今回の新型コロナ肺炎では、無症状で経過する人もいれば、若くても重症化し最悪、死亡する例もみられ、若くて健康そうでも急速に悪化する可能性があります。先日も東京で28歳の力士が亡くなりましたが、もともと糖尿病があったとのことです。
中国・武漢の研究所の発表によると、喫煙者が新型コロナ肺炎にかかるリスクは非喫煙者の14倍、重症化のリスクは1.7倍と報告されています。
タバコが重症化のリスクとなる理由は、異物を排出する気道の線毛が傷む、炎症を抑えたり修復したりするサイトカインの産生が減る、今回のウイルスの侵入口となる細胞表面のACE-2受容体を活性化させるなどがいわれています。
さらに、タバコは肺だけでなく、全身の血管にも悪い影響を及ぼします。血管を収縮させ、狭窄を起こし、血栓が作られることは心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなります。喫煙者に多くみられるこうした心血管の障害も、肺炎重症化の要因となります。
なお、新型コロナ肺炎重症者に占める喫煙者の割合は非喫煙者に比べむしろ低い、だからニコチンは肺炎予防効果があるという論文が先日フランスから出されました。愛煙家には都合のよい話ですが、統計解析での母集団の取り方に問題があり、年齢調整もされておらず、しかも査読もなし。極め付けはこの論文発表者が過去にたばこ関連会社から研究費をもらっていることで、利益相反の疑いもあるといった怪しげな内容でした。モラルに反する論文ですね。
タバコの害がいわれ続けて久しいのですが、日本の喫煙率は男性29.0%、女性8.1%(2018年国民健康・栄養調査 厚生労働省)。2003年の46.8%、11.3%に比べると低下傾向ではありますが、男性の30・40歳代は37%と依然として高いこと、女性の喫煙率があまり下がらないことなどが課題です。
ちなみに県別でみると、最高は北海道、最低は奈良県で、5月18日時点での新型コロナ感染患者死亡率(死亡者数/累積患者数)は北海道(75/1014)で7.4%、奈良は(2/90)で2.2%と3倍強の差がみられました。日本全体と世界の死亡率が4.6%、6.8%なので、北海道はやはり高いように思えます。
WHOによれば、現時点で世界の新型コロナ肺炎死亡例は31.1万人に達しています。今後の推移をみなければなりませんが、毎日4千人近くが亡くなっており、100日続くと40万人、1年間では100万人近い人が亡くなるかもしれません。
これは大変な事態といえますが、タバコが原因で1年間に亡くなる人は800万人と推計されています。この莫大な死亡数は日常の中に溶け込み意識されていません。
新型コロナ対策には今後も多くの費用と労力がかかり、すでにリーマンショックを上回る経済的なダメージも受けています。禁煙は我々の意識次第です。費用はかからずむしろ節約ができ、その分を教育や医療のために使えます。
喫煙家の皆さん、これを機にタバコをやめませんか?
1975年熊本大学医学部卒業、1981年同大学大学院修了後同泌尿器科に入局。1986年米ミシガン大学腎生理学教室留学。1988年熊本大学医学部泌尿器科講師、1989年済生会熊本病院人工透析科医長、同腎泌尿器センター部長、同管理運営部長、副院長・TQMセンター長を経て、2009年に院長就任。2017年より現職。日本クリニカルパス学会理事長、くまもと禁煙推進フォーラム顧問。
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