済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
タバコは、身体にさまざまな影響を与えます。タバコが原因となる有名な病気は肺がんですが、口の周辺にできるがん、肝臓がん、膵臓(すいぞう)がん、腎臓がん、膀胱がんなど、タバコは煙が通るすべての臓器に悪影響を与え、がんの発症リスクを高めることが分かっています。また、心臓病、肺炎、脳卒中のリスクも上がります。つまり、日本人の上位4つの死因※1すべてに影響を与えているのがタバコなのです。また、肺の生活習慣病であるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)はタバコが原因で起こる病気で、悪化すると酸素吸入が必要になるなど、生活の質を著しく低下させる可能性があります。
※1出典: 厚生労働省 死因順位(第5位まで)別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率
私は呼吸器を専門とする腫瘍内科医で、今までに700人以上の肺がん患者さんを診てきました。治療に携わる中で、患者さんが苦しい思いをしながら治療をしても、残念ながら亡くなることが多くありました。このような経験から、病気になった人を治療するよりも、禁煙によって肺がんの発症をおさえるほうが、より多くの人を救えるのではないかと考え、1999年から禁煙外来に携わり、現在も禁煙の普及啓発に努めています。
タバコによってリスクが上がる病気
禁煙外来は、以下の基準を満たせば保険診療で受診することができます。
①タバコ依存度テスト(TDS)が5点以上
②喫煙指数(1日喫煙本数×年数)が200以上
③1カ月以内に禁煙開始の意志がある
④禁煙治療を受けることを文書により同意している
タバコ依存度テスト(TDS)
設問内容 | はい (1点) |
いいえ (0点) |
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問1 | 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか。 | ||
問2 | 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか。 | ||
問3 | 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか。 | ||
問4 | 禁煙したり本数を減らしたときに、次のどれかがありましたか。 (イライラ、神経質、落ちつかない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重増加) |
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問5 | 問4でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか。 | ||
問6 | 重い病気にかかったときに、タバコはよくないと分かっているのに吸うことがありましたか。 | ||
問7 | タバコのために自分に健康問題が起きていると分かっていても、吸うことがありましたか。 | ||
問8 | タバコのために自分に精神的問題※2が起きていると分かっていても、吸うことがありましたか。 | ||
問9 | 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか。 | ||
問10 | タバコが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか。 |
※2精神的問題: 禁煙や本数を減らしたときに出現する離脱症状(いわゆる禁断症状)ではなく、喫煙することによって神経質になったり、不安や抑うつなどの症状が出現している状態
若い世代では②の基準を満たすことが難しく、今までは禁煙外来を受診することができませんでしたが、近年この基準が改正され、35歳以下では②を満たしていなくても受診可能になりました。
実際に診察をスタートすると、身体に貼るニコチンパッチや、飲み薬のバレニクリンで治療をします。ニコチンパッチは、ニコチンを少量ずつ体内に摂取することで禁断症状をおさえ、バレニクリンはニコチンを含んでいませんが、似た作用をして禁断症状を防ぎます。
禁煙外来では、3カ月かけて禁煙できる身体と心を作っていきます。重要なのは、「身体の依存」「心の依存」「習慣の依存」を取り去ることです。
「身体の依存」とは、ニコチン依存症の人がニコチンを摂取したくてたまらなくなってしまうことです。体内のニコチン量が少なくなるとイライラする、不安になる、集中力が落ちるなどの禁断症状があらわれます。体内のニコチンは約3日で抜けるため、この時期が禁断症状のピークになり、個人差はありますが、2週間を超えると治まってきます。
「心の依存」とは、タバコによってストレスが解消できる、などの誤った認識のことです。非喫煙者の人でも間違った認識を持っている人が多いので、下表で社会的ニコチン依存度を一度チェックしてみましょう。
「習慣の依存」とは、生活の中に習慣として組み込まれている状態です。例えば、コーヒーやお酒を飲むとタバコを吸いたくなる、など特定の習慣と喫煙が結びついていることがあります。自分がどんなことをしたときに吸いたくなるのかを分析し、その呼び水となる行為を遠ざけることを勧めています。
加濃式社会的ニコチン依存度質問票
※10点以上はなんらかの社会的依存があると考えられる
禁煙ができないのは、「意志の力」が足りないからではありません。タバコがいろいろな習慣と結びついていていると理解し、世間的にいわれているメリットが間違ったものであると認識することが重要です。また、一度で禁煙が成功しなかったとしても落ち込むことはありません。自分を責めず、続けられる方法を模索しましょう。
タバコを吸いたくなる飲み会などの環境や、ライター・タバコなど、見てしまうと吸いたくなる物を自分から遠ざけましょう。「人間は心が弱いもの」と考えて、吸いたくなるキッカケとなるものに近づかないようにすることが大切です。
「タバコがストレスを解消するもの」というのは、誤った情報です。一般的にいわれているタバコによる良い効果のほとんどは嘘だと思ってください。ストレスを作り出しているのはニコチン依存症による禁断症状で、喫煙によりその禁断症状が緩和されるため、ストレスが軽減されたと感じているだけです。また、タバコを吸い続けることで意志の力が弱くなってしまうことが分かっています。タバコは「百害あって一利なし」と肝に銘じてください。
バレニクリンは薬局では販売しておらず、ニコチンパッチは薬局でも売っていますが、小さいサイズのものしかありません。1日に20本以上吸う喫煙者の場合、薬局のニコチンパッチではニコチン量が足りません。意志の力でタバコを我慢し続ける「つらい禁煙」ではなく、医師の力を借りて「我慢しない禁煙」にトライしてみましょう。
現在、加熱式タバコがブームです。加熱式タバコとは、タバコ葉を加熱することでニコチンを抽出して体内に取り込むものです。燃焼することによって出ていた有害物質は出なくなりますが、燃焼させなくても出てくる有害物質は多くあります。タバコの製造メーカーは「害を減らす効果がある」と謳っていますが、病気のリスクが減るかどうかは、これから何年も経たないと分かりません。また、禁煙をしようとしている人が、害が少ないといわれている加熱式タバコに流れてしまう可能性があります。これは、新しくタバコを吸い始める人も同様で、加熱式タバコが喫煙の入口になってしまうことも考えられます。身体への影響について、データはまだありませんが、決して無害ではないということを覚えておきましょう。
解説:川井 治之
岡山済生会総合病院
内科診療部長・がん化学療法センター長