済生会は、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと明治44(1911)年に設立しました。100年以上にわたる活動をふまえ、日本最大の社会福祉法人として全職員約64,000人が40都道府県で医療・保健・福祉活動を展開しています。
済生会は、405施設・437事業を運営し、66,000人が働く、日本最大の社会福祉法人です。全国の施設が連携し、ソーシャルインクルージョンの推進、最新の医療による地域貢献、医療と福祉のシームレスなサービス提供などに取り組んでいます。
主な症状やからだの部位・特徴、キーワード、病名から病気を調べることができます。症状ごとにその原因やメカニズム、関連する病気などを紹介し、それぞれの病気について早期発見のポイント、予防の基礎知識などを専門医が解説します。
全国の済生会では初期臨床研修医・専攻医・常勤医師、看護師、専門職、事務職や看護学生を募集しています。医療・保健・福祉にかかわる幅広い領域において、地域に密着した現場で活躍できます。
一般の方の心身の健康や暮らしの役に立つ情報を発信中。「症状別病気解説」をはじめとして、特集記事や家族で楽しめる動画など、さまざまなコンテンツを展開しています。
口は、食べ物や病気を引き起こす病原体などの異物が入って来る、体の入り口です。鼻や口の粘膜には、粘膜免疫と呼ばれる病原体に対する防御機能が備わっています。
予防注射に代表される全身免疫は、体に侵入した病原体の情報が血液循環やリンパ流に乗って、臓器やリンパ組織を通過しながら全身をめぐることで、その病原体を体が覚えて免疫を作り、次に侵入したときにすぐ攻撃できるようにするためのものです。
一方、粘膜免疫は、口から入った病原体が粘膜に付着すると、全身免疫に情報を送るのと同時に、付着した粘膜近くのリンパ組織を介して、病原体の侵入を阻止する物質(分泌型IgA)を唾液中に分泌し、素早く病原体に対応します。インフルエンザウイルスは喉や気管の粘膜で増殖するため、この粘膜免疫は感染防御に有効です。
唾液は細菌やウイルスを防御し、さらに口腔内の汚れも洗い流してくれます。その他にも、唾液に含まれるムチンには粘膜保護作用が、上皮成長因子には傷ついた粘膜組織を修復する作用があります。
口の中は、常に300種類以上の細菌や真菌が生息しており、私たちの体は腸内細菌と同じように、口の中の細菌とも上手に共存しています。口の中に細菌が適切に存在することで、多くの病原体の感染を防ぐのです。しかし、口の中が不衛生になり、細菌が増えてしまうと、一部の細菌が産み出す物質(プロテアーゼなど)が、粘膜の防御機能を破壊してしまうことがわかっています。また、飲み込む機能が弱っているご高齢の方では、唾液に混ざった細菌が肺に入り、肺炎を引き起こすことも知られています。
むし歯や歯周病を予防するだけではなく、インフルエンザや肺炎といった全身的な感染症を予防するためにも、口腔ケアは欠かせないことなのです。
基本は、毎日の「はみがき」が大切です。食後は口腔内細菌が増殖しやすい環境になるため、毎食後にはみがきをしましょう。歯の汚れである歯垢は、細菌のかたまりです。歯垢はバリアを作るため、はみがき粉やマウスウォッシュだけでは除去できず、歯ブラシでしっかり取り除かなければなりません。
歯ブラシの毛先が歯の隅々にピタッと当たっていることを確認し、歯を1本ずつ磨くイメージで、優しい力で細かく動かします。
歯垢が除去されずに固まってしまうと歯石になり、はみがきだけでは取れなくなるため注意が必要です。歯石がついてしまった場合や、歯のぐらつき・歯茎の腫れがみられる歯周病(=歯槽膿漏)の場合には、歯科での専門的な口腔ケアや治療が必要になります。専用の器機で、自身のケアでは取り除くことができない汚れを徹底的に除去し、口の細菌を減らすことを目指します。
また、口腔内細菌と体の免疫力は、絶妙なバランスを保っています。菌の数が同じでも、体の免疫力が低下すると、細菌が体に悪影響を及ぼすことになるため、病気や治療で免疫力が低下している方にも、歯科での口腔ケアがお勧めです。
ほとんどの方は毎日はみがきをしていますが、汚れがしっかり除去できているとは限りません。歯の形は複雑なので、歯ブラシの毛先が届いていないところには必ず汚れが残ります。一度歯科を受診し、自分にあった効率がよく、磨き残しの少ない方法を学びましょう。
寝ている間は唾液が減ることで、自浄作用が低下し、口腔内細菌が増殖する絶好の時間帯です。毎食後のはみがきは口腔ケアに欠かせないことですが、それが難しいという方は、夕食後か寝る前だけでもはみがきをするように心がけましょう。
口の潤いのもとは唾液です。前述したように、唾液は細菌やウイルスを防御してくれるため、口腔内の乾燥対策が重要です。唾液は副交感神経が優位なときによく分泌されるので、リラックスする時間を確保するといいかもしれません。咀嚼(そしゃく)することでも増えるので、食べるときはよく噛んで食べてください。さらに、鼻呼吸を心掛け、就寝時にマスクをするのもいいでしょう。
唾液を作る組織の障害や、服用薬の副作用で減少する場合もあるので、乾燥が気になる場合は、ぜひ歯科に相談してください。口から食事を摂られていない方も、唾液が減って口腔内が汚れやすくなるため、歯科への相談をお勧めします。
歯周病予防で長寿が手に入る?!
歯周病は、口腔内細菌の中にある原因菌(歯周病菌)の増殖によって進行する病気で、歯を失う一番の原因です。一方で、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こした血栓内や、大腸がんの周辺で歯周病菌が検出されるなど、増えすぎた歯周病菌は全身的にも悪影響を及ぼします。
歯周病菌由来で産み出される物質も、血管内の細胞を傷つけて動脈硬化を進行させること、インスリンのはたらきを阻害し糖尿病を悪化させることがわかっています。口腔ケアで歯周病を予防することは、全身の健康維持にもつながっています。事実、歯が多く残っている方ほど年間の医科医療費が少ない、または長寿であるといった調査結果もあります※。
※出典: 日本歯科医師会『生活歯援プログラム』/『健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデンス2015』
解説:助䑓 美帆(すけだい・みほ)
済生会松阪総合病院
歯科口腔外科